マルクスのかばん
アラガイs


台所に珍しいカボチャの種がある
ひょっとして奇形が生まれるかも知れないと
そっとかばんに隠して、畑に撒いてやる
その畑はあまりにも荒れていた。
このままでは芽が出ない
「芽が出ない」畑は淋しく無駄になるからと、
、人手を探しに町まで降りてゆく。
連れてきた労夫は、新品の鍬を二つ揃えろとわたしに言った。
それでも畑の土は化石のように硬く、鍬はすぐに壊れてしまう
鍬を放り投げて、わたしは機械を借りることにした 。

簡単な機械でもマニュアルがあった。
免許が必要だった。
【町の運転手求む】なんとか探して連れてきた運転手は、二人ぶんの賃金を要求した。
払える金はなかった
それならば…と、
わたしは自ら機械の免許を取るため教習所に通った 。
やっとの思いで免許を取ったころ
すでに機械は錆びついて動かなくなっていた。
また、新品の鍬で我慢しなければならなかった 。

荒れた畑の土はいまでも予想外に硬く、掘れども〃新品の鍬でも歯が立たない
そこで新しい機械を借りることにした。
やがて十年が経ち、やっとその機械を手に入れることができた。
しかし、これでまた三十年働かないと元は取れないことに気がついたわたしは、働く意欲がなくなってしまった。
そして、手間のかからない胡瓜に種を変えた。

枯れ葉も堆肥に十年が過ぎるころ
カボチャの値段はすっかり下がり
ここ何年も続いた水害で胡瓜の値段だけが跳ね上がっていた。
いつのまにかわたしのまわりにはおカネが増えていて
(季節はひとときの気まぐれに流されてゆく)
広大な土地を手に入れたわたしは
いまでは種のない葡萄の権利書を鞄に入れて持ち歩いている 。










自由詩 マルクスのかばん Copyright アラガイs 2011-08-22 09:12:40
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