You'll see. (今にわかる。)
ayano




賢い人は相手にわかりやすく話すという。小難しい言葉を振りかざすことなく、意見を述べるという。これについて、正論だとわたしは思う。話しはいくらか飛躍的になるが、人はわざわざムードを作らずとも互いに好いているもの同士なら自然と形が浮かんでくる。自然とセックスしたくなるということだ。下品。人工ムードは所詮虚構の城である。


コーヒーを啜る恋人の隣でわたしもコーヒーを口にし、そんなことを考えている暇があるのだからわたしも大層気にされていない。人工ムードが廃れる以前に彼とわたしは何も知らないのだ。気遣いを、取り繕うことを、偽善を。悲しくなどない。しらない。



「すきとか愛してるとか俺言えないしさー」
「会話の開始が唐突すぎる」



すきな子の絵なら簡単に描けるんだよ、と付けたしわたしの言葉は一切無視で、一枚の紙をこちらへ寄越す。わたしの横顔が描かれている。さらりとこういうのを描いて見せてくるからわたしとしては少し親目線で褒めたくなってしまう。「見て見てー」「すごいねーえらいねー」これだ。
お前はいつわたしの横顔を見たんだ、ずっとコーヒーを見ていたじゃないか、それには触れない。



「ほんとに絵うまいよね」
「マジ?ありがとうねー」
「なんかユニークじゃん」
「えっそれ褒めてんの?」



あなたが好きだ、よりあなたの描く絵はすてきね、の方がリアクションしやすいだろう。簡便さを求めてるわけではないが、わたしには「あなたが好きだ」と言われてどうすればいいかわからないから。そもそも人間は好き嫌いではない。付き合わなくてはならないのだ。好きだから付き合いたい?嫌いだから付き合いたくない?ガキかあほうの類か貴様。お前のために地球まわってんじゃねえんだよ。愛は地球を救わないよ愛人は男を誑かすんだよ。比較ではない強制でもない生活だ。食事睡眠キスセックス。少々暴力的になってしまったがわたしの持論である。同種・同族は避けて通れない。水族館の水槽の中で食べ食べられる魚のように。



「この絵とおれ、どっちがうまい?」
「はれんち」
「おれだよねー」
「エー」
「ギャグが寒い」
「お前が言うな」



ある種才能とも言えるべきわたしの冷静さはそれはそれは氷の女王もびっくり級で、会話終了の合図と共に彼と同じタイミングでコーヒーを啜った。


彼はいつもコーヒーをまずそうに飲む。嫌そうに眠る。面倒くさそうに笑う。だが、わたしが会ってほしいと頼めば会ってくれるし、頼んでもいないのにわたしの絵を描く。それはどういう意味なのか。知らなくてもいい気がするけど。







自由詩 You'll see. (今にわかる。) Copyright ayano 2011-08-21 14:07:48
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