水へのコラージュ
草野春心



  ある日
  ひとつの
  比喩が語られ
  取り戻せない距離を
  旅立ち
  細長く
  何処までも
  鏡として連なり
  映し
  流れ
  響き
  祷り
  ひとつの
  比喩を脱ぎ捨て
  新たな
  比喩を身にまとい
  それは
  孤独
  それは
  拒絶
  それは
  故郷
  映された
  現象
  映された
  永遠
  ひとつの
  比喩を歌い
  たとえば
  あなたの
  拙さと出会い
  時に
  密かに淀み
  暗がりを
  迂回し
  愉しみ
  嘆き
  見つめ
  軽んじ
  流れ
  流れ
  透明な手に
  掬いとられ
  時に
  溢され
  降り
  注ぎ
  ひとつの
  比喩を喪い
  たとえばわたしの
  言葉へと
  辿り
  見つめ
  見つめられ
  無限を
  映し
  瞬間を
  映し
  貪り
  吐き出し
  熱に
  焼かれ
  浮き上がり
  流れ
  消え
  時を
  軽やかに超え
  ふたたび
  ある日
  ひとつの
  比喩が語られ

  *

  わたしが
  みずをみるとき
  みずは
  わたしをみている
  だれも
  みずをみないとき
  みずは
  せかいをみている

  わたしが
  あなたをみるとき
  あなたは
  わたしにみられている
  あなたが
  わたしをみるとき
  わたしは
  あなたにみられている

  わたしが
  わたしをみるとき
  わたしは
  みずにみられている

  *

  あなたへと
   おだやかに
  あなたへと
   たおやかに
  あなたへと
   しとやかに
  あなたへと
   ゆるやかに

  あなたへと
   のびやかに
   のびやかに
   のびやかに

  わたしへと
   ゆるやかに
  わたしへと
   すこやかに

  *

  あなたに
  わたしが
  口づけたところから
  シマウマの死体がこぼれ
  その
  首筋の
  赤い痕跡から
  獰猛な黒豹がこぼれ
  その
  鋭く輝く
  一対の瞳から
  広大な
  黄金のサバンナがこぼれ
  わたしが
  そこを歩いていると
  かさかさと
  乾いた熱風が吹き
  一本の樹から
  いつかの青空がこぼれ
  あなたが
  そっと
  微笑むと
  青空は
  ふいに
  はげしく淀み
  いくつもの
  雨粒がこぼれ
  わたしと
  あなたは
  はじまりへ
  映しとられ
  家に帰り
  出会いなおし
  いつまでも
  おなじではない
  わたしと
  あなたは
  はじまりへ
  うばいとられ
  いつまでも
  いつまでも






自由詩 水へのコラージュ Copyright 草野春心 2011-08-21 11:59:25
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