小詩集【流星たちの夜】
千波 一也
一 送電線
夕立のあとは
すっかり晴れて
青と
朱とが
きれいに
混じる
送電線には
数羽のからす
もうじき
日没後には
からすの色は
空と同じに
なる
だから
わたしは
確かめた
送電線の
ずっと向こう
黒と
呼ぶには
まだはやい
きれいな
混じりを
確かめた
風に
揺られる
わたしの髪にも
からすを数羽
休ませながら
二 答礼
寂しさが
つのるようなことばかり
追いかけているような
気がします、
毎日
だから、ほら
ぼくの靴は昨日より
すり減って
くたくた
です
どこか、
遠くへいけば
少しは楽になれますか
見上げた夜空に
星くずはまたたいて
ぼくは
そこに
なにかを
聴きたくて
聴けなくて
ひとり、
おだやかに
つまさきを
見つめ直しました
なるべく
ひとには
背を向けて
三 深まりゆく水に
深まりゆく水に
あらがい続けた果てを
底とよぶ
深まりゆく水に
寄り添い続けた果ても
底とよぶ
そして
底から見上げるものは
みな明るくて
みな美しい
そんなやさしい真実が
深まりゆく水に
とけ込んでいる
そうとは知らずに
みんなみんな逃げるけど
逃げられるつもりで
逃げるけど
夜には
誰もが
見上げてる
深まりゆく水に
そまり始めたことなど
まったく知らないで
四 散りゆくものへ
かがやいた、ら
それで終わり
わずか
数行の詩のような
流れ星です、
こんやも
けれど
それほど哀しくないのは
あんなにきれいな
一瞬だからで
私は
まるで
少女のように
宝石の名などを
並べたりして
かがやいたの、
です
だから
もう、終わり
きのうの私も
おとついの私も
わずか数行の
詩に込めます
そういうふうに
私は散ります
祈りも
はなも
よく似ているの、
です
あ
また
かがやいた、
です
五 エントランス
夜は
かしこい生きものですから
ご注意を
いのちの歴史の
夜の多さが
無数の声を
放つのです
係のものはございません
ご注意を
揃った時計もございません
ご注意を
ただし
問い続けることが
いのちでございますので
それだけは
お忘れに
なりませぬよう
友の定義は自由です
愛の定義も
夢の定義も
自由です
それゆえどなたも
お連れさまには
ご注意を
夜は
かしこく
待っているのです
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