東京タワー
pansy1003
赤羽橋駅を降りて
ガソリンスタンドの脇の道すがら
もし時間を戻せて
やり直すことができるとしたら いつがいいなんて唐突に聞くから
少し 驚いてしまった
傘に隠れて
表情まではわからなかったけど
小さな頃にね
パン屋になりたかったんだ
なんでだろ ケーキとか好きだったからかな
わたしは花屋かな
茎を切った時の青っぽい匂いが好きだった
想像してた未来とは
全然違う所まで来たって事は
夢破れたって事なのかなとおどけてみせる
どこかで落としてしまった宝物のビー玉
間に合わなかった夢
手放した恋や
閉じたドア
そんなものが君にもあるとして
それでもわたしは否定する
破れたんじゃなくて
夢自体が変わっていったんじゃないかな
一瞬 黙り込んで
君は そうだね と低い声を返した
それから
雨上がったね と
ビニール傘を閉じて
顔を上げた
節電のためか
東京タワーは
ライトアップが控えめで
展望台の階に
淡く浮かび上がる
青いハートの形と
横にのびたラインだけ
タワーの足下で
手乗り写真撮ってみたいねと手を添えてみると
近過ぎて角度が難しいんじゃないと
君は笑ってたしなめた
どうも ロマンチックなものが似合わないね
結局 写真も撮らず
また駅に引き返した
歩きながら 時折 振り返った
振り返ると必ず見えるものが 必要に思えた
だんだん小さくなっていくタワーの
ハートの横の細いラインが
リボンの形をしていることに気づいて
気づかない横顔に そっと笑いかけた
水溜まりを避けるようにして
二人 暗がりを歩く
今
重なる靴音