Earthbound(VCS3)
木立 悟
ひとつの錐と
ひとつの傷
その間にあるものすべてが
錐により傷に押し込まれてゆく
錐により 錐により 錐により
奏でる前に
降っていた
奏でられるはずのものが
降りつづいていた
誰も奏でてはいないのに
何も奏でてはいないのに
暗がりに
かろうじて錐は見えている
表すものを
表すことなく表そうと
ただ細く深い傷に向かう
骨を伝う音
影のようにひろがる水
独つ目の灰が空をすぎ
鱗の光と指を巡る
(複眼の朝 複眼の朝)
くちばしが
青黒く光り
土に刺さろうとしている
(うたをうたおうとしている)
(うたをうたおうとしている)
晶 鉱 鱗 蛍
手さぐりの視覚 空に触れ
水の底に逆さまの
鋭利な虹の飛沫に立つ
まわり まわり
叩きつけられ
亀裂に埋もれ
出てはこれない
震動と怒号
(震動と怒号)
さらにさらに
爆けるばかり
さらにさらに
埋もれるばかり
一斉に在り
一斉に無く
(器 放射)
誰もいない階段の
水の傷 水の無音
影の無音に振りかえる
夜の窓の双子たち
滴の栞に濡れる指
分かり合えない調和たち
未明の足跡
街を越え
海を越えて鳴りつづく