羽のない鳥
士狼(銀)
ことばの世界から遠ざかってしまったのは
見ようとしても見えなかったものが
見たくないのに見えてきてしまって
見えるものだけが正しいと思ってしまったからだった
気がついたときにはもう
粘着質な糸にぐるぐる巻きにされて
大きな牙が喉元にきていたのだ
ああ ぼくに 羽はない よ ?
感情を司るココロは胸部にはない
脳の一部が反応した結果だ
犬は笑わない
笑っていると思いたいのは人間だ
心臓は胸腔の正中左寄りに位置するのが正常であり
心臓をハート型に描かれた人は心臓に疾患がある
生き物は星にはならないのだ
そうしてぼくは
鳥になれなくなった
大きな牙がぼくの喉笛を掻き切ると
そこからひゅーひゅーと頼りない音がして
ああ空気が漏れているのだろうと
重たい瞼を押し上げると
我先にと飛び出していたのは自由なことばたちだった
それはしばらくして沈黙し
ぼくはただただ空っぽの体で愕然とした
大きな牙はもう次の獲物を狙い定めていて
空っぽのぼくは発することばを失ったまま
ことばの世界で生きていたのに
理屈に絡まれたぼくはそれを認められなくなって
遂に愛想をつかしたことばたちは
この愚かな生き物から旅立っていったのだった
ぼくはいつだって
鳥になることができて
海を自在に飛んでいたのに
嗚呼。