黄色い庭
緋月 衣瑠香
うだる夏
蔓をのばし 背をのばす
巻きつく ぐるぐる
行き先はどちらですか
天ですか それとも天国ですか はたまた地獄
我が家は関東と東北の血筋が強いもので
ゴーヤなんてそんな大層なものをどうしろというのですか
定番のチャンプルはこれでもう何度目でしょう
ジュースはまあまあ
天ぷらは結構よかった
それでも もう限界ですよ
それでものびる
どこかへ向かって 居間の窓を覆う
夕暮れ 風に揺れる
隣に咲くモネのひまわり
ゴッホならまだしもモネのひまわりって
母は見事に名前に釣られて我が家にこの子達を持ち帰ってきた
しかしその当事者はモネの描くひまわりは知らない
すくすく育つモネのひまわり
どうやらゴッホとゴーギャンのひまわりもいるらしい
それを知った母の一言
「だったらモネよりゴッホがよかった」
モネのひまわりに嫉妬するゴーヤ
そのエネルギーを発散するようにどんどん実をつける
誰の気も知らずに
アドレナリンでも分泌しているのですか
少しは落ち着きなさい
そうしてどんどん黄色くなっていくゴーヤ
嫉妬屋さんを連れ帰ってきた兄はニタニタ笑う
「もっと熟れろ 早く裂けてしまえ」
無駄ですよ皆みんな
停滞期
数週間前まで見ていた都会の蠢く波
泳ぐ私 溺れないように
田舎者だと笑われないように
すまし顔
まるで我が家のモネのひまわり
ここにはあの無機質さはない
けど
私がここにいる
迷走する私がいる
溺れそうな私がいる
ちかちか
黄色信号ちかちか
注意して進みましょう
ちかちか
そうだ進めるんだ私は
進める内に進まなければ
黄色信号点滅中の私が庭に立つ
臆することはない
進めるんだ進もう進まなければ
滴る汗
地に落ちて吸いこまれる
消えてしまう前に
うだる夏