ユニヴェールを探して
ayano


みずうみへ
冷蔵庫から取り出した氷たちを口いっぱいにつめこんで走った
夏休みのティーンエイジャーはただただ暇だったのである
ウェディングドレスは溶けだし足手まとい管理職就任
主人はストーカーなんですわたしの!!!
花嫁女子高生は式場から飛び出した




「ケータイを空に放り出したら、みずうみが見たくなったんです!」
そう叫んで走り去る彼女を男は口をあけて見ていることしかしなかった
姿は見えずとも呼吸音はイヤホンからあふれつづけていた
煽られ上手な男はこれだから困るのだ


「切符、くらはい」
「ラ・フェルム」


(駅員さんのいじわる!フランス語を使いやがって!すごい!)


電車がだめなら脚力つかえばいいじゃない
似たようなことをマリーも言っていた

露出した肌が焼けるのは不本意だったけれどそんなの構っていられないし呼吸をとめたらあの人が悲しむだろうから。ふわふわと深呼吸をしたら嗚咽がこぼれた。ストーカーにかける情けもないだろうに。どうかしてる。もしもしてすてす、わたしの体内に埋め込まれたマイクは正常に音を拾っていますか。聞こえていますか。


     *


空を仰ぐと電線が降ってくるのが見えた 独占欲にまみれた
景色が一転して意識が飛んで、電線に縛られてきもちよくなった
電線は耳元で何かをささやくのだった むかしむかし好きだったあの子の声で


  兎
  きれいなレースがわかくて
  つらい
     あかか
  目を撫ぜて
  揺れる 樹氷
  線路沿いに並び咲く
  かぜ は死ぬ さみしくて

  爆ぜるローファー
  宇宙の 半導体
  縞に追いつかない
  空だって飛べない


男は足音をたてながら颯爽と歩いていた。カラスが喪服を纏って街を徘徊しているような光景に電線は声をあげて笑った。笑い方がとてもかわいくて女はめまいがした。そうして電線は女を、故意に離してやった。


「つー・か・まー・えたー」
「とん・つー・とん」


俺の嫌いな女に成り下がって、支配に寄り添って。スカートから生えた足は硬く凍てついて、生体機能は喚くから、惨い。髪の色どうしたの、汚いね奇怪な、肌色だ。
手のひらからライターを作りだすものじゃないよ。そうやって花が呻き咲くみたいに手を燃やすなよ。いま俺が、冷ましてやるから。キスをしてこぼれた水で、俺たちを濡らす夏だった。

「モニターに向かっておおきく脚をひろげなさい」

みずうみを壊した。

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自由詩 ユニヴェールを探して Copyright ayano 2011-08-14 21:26:30
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