物語
花キリン
古い絵本は古い本棚の奥にしまい込まれていた。埃を掃ってから古い時代の時間を巻き戻してみた。水が難しそうな顔をして、山奥からからこぼれ落ちてきた木の実と話をしている。木々が立ち姿を気にしながら、ページの端で何かを呟いている。風が悪戯して森のまわりを騒がせるから、深閑としたもの静かな出だしではなく、一ページ目には少し騒々しい風景が置かれている。続きは二ページ目に入るのだが、物語とはロマンだから、明るい絵の具で物語が森の隅々まで広げていく。白い鳩はどこからか飛んできて小枝の囁きを啄ばんでいる。それぞれの色が大人の静けさを保ちながら、物語は完成されていくのだろう。賑やかさを描いた後だから妙に興奮するものがある。幾つかの本の綻びは想像で補えるから、主人公を何人でも置くことができる。ページ一杯に想いを重ねて、ときおり前のページに戻ったりしてみる。三ページには何が隠されているのだろう。物語は完成されたのだろうか。夜の時間が星空などを積み重ねて積み木遊びを楽しんでいるようなのだが、少しだけ覗き見して全容は私だけの秘密にした。まだ物語りは未完成なのだ。ここから先には、古い懐かしい物語が隠されているはずである。物語とは冒険でもあるのだが、記憶が蘇るのには大きな時間が必要だ。だから三ページから先は、少しずつひも解いていこうと考えている。古い絵本が古い本棚の奥にしまい込まれていた。懐かしい香りが部屋中に漂っているから、今夜もきっと眠れないかも知れない。