イトマキエイの舗装
シリ・カゲル


今年度も予算が余ったので
イトマキエイを舗装することになった
今年度の対象は
大水槽をゆったりと泳ぐ姿が人気の
瑛太くん

脱力系の測量士が
手際よく経緯儀を用いて
瑛太くんを測量していく
イトマキエイの面積の公式は
エイヒレ×味醂+マヨネーズ
お好みで七味を

標本にされたオニヒトデと
剥製にされたツキノワグマと
燻製にされたソーセージの
合間を縫って鈍色の重機が出入りする
強化アクリルの向こう側で
水煙がここぞとばかり舞い上がる

ふぉるもきゅおるん
瑛太くんが唇の端を泡立て
魂の器官をふるわせながら
ふぉるもきゅおるん
鰓を残して舗装されていく
最後は水族館職員全員のゲリラ豪雨で
舗装された瑛太くんを冠水していく

今年度の予算も計画通りに消化されました

水槽に額をくっつけて
ヨイトマケの唄を歌っていた少女だけが見ていた
アスファルトのひび割れから覗くつぶらな瞳から
ひとしずく落ちたたんぽぽを
交通量頻繁なイトマキエイの
削れたアスファルトの粉末がたゆたう海の底へと


自由詩 イトマキエイの舗装 Copyright シリ・カゲル 2011-08-10 22:47:20
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