こいびと
因幡菫子

あなたは
決してわたしをゆるさなかった
はじまりの
隠しあう接触のぬくもり
黒くながれおちる髪を
手櫛でやさしく梳きながら
洩れる水を袖口に運ぶ


清潔な距離がくれた
まどろみのなかで
あなたの背中に文字を描く
たとえばそれは
生理痛のように鈍い
窒息

濁った指先で
謝らせて、それでも
やさしいあなたは
決してわたしをゆるさない


赤黒い海の浜で
たかく積んだ砂の城
触れれば崩れおちるから、と
薄汚い潔癖と
みえない愛撫だけで補って
みえない殴打で
ただやさしく
やさしくころしてはくれないか


爪をすて牙をすて、それでも
ふかい隠蔽の重みに
耐えられず床が軋み
微笑むあなたは
さかしまの細い指で
わたしの首を絞めた
(せかいは清潔なままで)
 
 


自由詩 こいびと Copyright 因幡菫子 2011-08-09 21:58:58縦
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