大塚のベーカーズ。
そよ風

大塚のベーカーズは静寂に満ちている。
パン屋とイートインコーナーが隣接するその店は、むかしロッテリアだった。

幼かった私は、子供のいない都会のファーストフード店で心ぼそかった。
ホームレスが入ってきてクリープをねだっていた。
暑い夏の日。

無秩序に選び食べきれない量のパンをトレーにのせてイートインコーナーに向う。

イートインコーナーにはたくさんの人がいて、たまたま一緒にパンを食べている。
目的をもって生活をしている人の背中はとても孤独だ。

わたし達は泳ぎつかれて頭はからっぽで体はフワフワういていた。
只、空腹を満たすためだけにパンを食べた。
君は最後のかつサンドを食べ終わる前に右眼が眠りにはいりミルクを飲み終わると私をおいてすっかり眠ってしまった。

食べ終わった紙屑をみていると、意識は宇宙へ飛んだ。
あぁ、また来てしまった。
真っ暗な宇宙。
愛する人たちにもう会えないと覚悟をきめている。
毎日会っていたのに感謝の気持ちを伝えられていたのだろうか。

繰り返し漂う。

幼い頃、父に叱られた。
「ぼーっとしてると、他の世界に連れていかれて、もうおとうさんにもおかあさんにも会えないんだぞ!」
本当にそうだ。

今でも、気付くと他の世界の扉を開けている。
何がいけないんだろうか。

出口はどこだろう。

私は知っている。 
ここは宇宙じゃない。大塚駅前のベーカーズイートインコーナーだ。
宇宙にいてもパン屋にいても結局、私は出口を見失う。

帰ろう
帰ろうようこ
名前を呼ばれる。
手をひかれてベーカーズを出る。
そうだ出口はパン屋を通って右だ。

後はリズムにのればいい。
山の手線に乗ってしまえばいい。何回か電車に乗り換えればリズムにのれる。
君はいつでも手をひいてくれる。

愛する人に会ったら気持ちを伝えよう。

後はリズムにのって山の手線に乗ればいい。


自由詩 大塚のベーカーズ。 Copyright そよ風 2011-08-09 02:04:46
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