すみれの花冠
三原千尋
すみれの花時計で十四時から二十三時までの十七分間を
世界で一番きれいだとうわごとくり返しながら
豚のように運ばれてゆく
荷馬車を降りれば
なまぬるく甘い夏に抱かれるのだ
息を詰まらせ汗ばんで
野卑な臭いを混ぜ合わせるのが好きだった
ぎとぎと粘っこい夏のほとりでは油の池が煮えている
蝉どもがじゅわじゅわと音立てて身を投げる
夏と心中するようにじゅわじゅわと身を投げる
四年前の五月のことでした
きみどりと水色のパステルカラーの河原で
どこにもいけずどこにも帰れず
泣きながらしろつめくさの花かんむりを編んでいました
ひとつ摘んでは将来を、ひとつ摘んでは世間体
世界は圧倒的にただしくてうつくしくてわたしはただ
目の前のきみどりや水色や黄色や白を憎みながら
花かんむりもつなげられない無能な子としてそこにいるしかなかったのです
蝉の声がざんざか降ってくる
夏がいよいよ濃い色に熟れてゆく
私の知る夏はいつだって濡れていた
熱くても冷たくても同じことだった
骨ばってかわいてそれなりにおとこだった
ちぎれた花かんむりのはじっこをきみに託そうかどうか