誰かに手紙を
乱太郎

誰かに手紙を差し出したい
秘めた恋心を
白い便箋の罫線の間にそっと忍ばせて

誰かに手紙を差し出したい
今朝咲いた朝顔の欠伸が
黒いインクの文字から聴こえてくるように

誰かに手紙を差し出したい
六十年前に戦場で散った若者の願いが
百年後でも死なずに済むように

誰かに手紙を差し出したい
癌で亡くなった母と妹に
天国への郵便ポストは何処にあるのかと

誰かに手紙を差し出したい
三十年後の自分に
今の自分の言い訳を

誰かに手紙を差し出したい
三十年前の自分に
今の自分の後悔を

誰かに手紙を差し出したい
見えない誰かに
私を知ってほしくて
見えない誰かが
私の目の前で輪郭を持つように


自由詩 誰かに手紙を Copyright 乱太郎 2011-08-04 15:46:48
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