静かなまぼろし
千波 一也


ありの行列は
時間の砂をせっせと運んでゆくような
そんな気がして、わたし
のどが渇きました

真っ白、とは言い難いミルクを
すっと飲み干せば
胸の時計は
狂いはじめます、やわらかに



 聞くに堪えなかった波音のこと
 きれいに捨てて欲しかった手紙のこと
 笑うよりほかになかった星の夜のこと
 甘すぎて厭わしかった果実のこと



風に揺れる葉は言葉を持っていて
わたしはそれを許すのが不得意で
身代わりに解き放ちます
髪や背や指を

思い出はいつか
上手に整列をしてくれるのでしょうか
いまはまだ
号令の言葉も見つからないけれど




自由詩 静かなまぼろし Copyright 千波 一也 2011-08-04 11:48:22
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