クロール
シホ.N


すらりくらりと水面を這う
無音のみずおと

昨日でなくあすでなく
今日を這う

身をくるむ水流
撫ぜて去る矢印の群れ

ふとぷわりと
空気を割る一個の頭で見渡せば
未来はらんだ
水着の曲線みねみねと

妊婦たちの教室だった
彼女らは
きわめてふつうの表情で
さだめて何か重みをもつ

世代を同じくし
何かを異にするわたくしたち
すうぅはあぁすうぅはあぁ
腹部のふくらみ輝かしく
ずうんゆあんと沈んで浮かび

ゆるりとして
凛凛とした波をたどって
僕は羊水の中を彷徨った
心地よくもある悪夢のように漂って

死とは産まれる以前に戻る事
そう思えば恐くはない
と?
そして産まれ出たからには
戻れない事を体感する

時間は流れも重なりもしない
記憶や希望だけが時間をつくる
幻想としての

僕はついっと泳ぎ出るしかなかった
すらりくらりと這いつづける
過去も未来もさておいて
今手につかんだ水を掻く



自由詩 クロール Copyright シホ.N 2011-08-04 00:22:14
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