ニンジンと間違えて
wako

鋭い痛みが走る
きつく押さえた指の間から
血が流れていく
ポタポタと落ちて
流しに広がる

息をのんで立ちすくむ

いったいどれほど切ったのか
怖くて見られない
ニンジンを見つめたまま
動けない
イタイ、イタイ、イタイ
指先で痛みが鼓動する
イタイ、イタイ、イタイ
まるで生き物の様に

この指は何をしてきたのか
  字を書くでもなく
  箸を持ちもせず
力仕事は右手にまかせて
  たまに荷物を持てば
  ああ疲れた、と大騒ぎ
ほとんど飾りではなかったか
  時には白魚のフリして
  マニキュア輝かせて髪かき上げて

それからの左手ひとさし指は
日頃のうっぷんを晴らすかの様に
わがまま放題
「それ見た事か」
「思い知ったか」
と悪態をつく
化膿するぞとジワジワ脅し
敗血症の地獄に引きずり込むぞと
牙をチラつかせる
大切に、大切にかばいながら
一ヶ月を過ごした

すっかり治った今も
「覚えておけ!」
と傷痕を残す
何かの拍子に
時々ピクリと痛む


自由詩 ニンジンと間違えて Copyright wako 2011-08-03 10:22:05
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