2011年の夏に--- An Old Lady And the River
N.K.

また空の底が抜けたから
3日間もバケツでぶちまけられるほどの
雨が続いて
大地に龍の輪郭を浮だたせてしまった

輪郭はうねり
橋や田や実りのはずだったところを
凝らされた丹精を
精力剤でもあるかのように飲み込んでいき

ますます猛り狂う
何が龍を目覚めさせてしまったのか
遠く離れた場所で考える自分はただ無力だ

床上まで水につかった家を片付けなければと
答えていた女性を
気丈さとはこういうものか
と安全な場所で凝視している自分はただ不遜だ

答えていた女性の顔が不意に歪み
気持ちの底が抜けかかる
窓のないはずの不遜なモナドも共感する

緑の濃くなる野に大地の色をした龍がのたうちまわる

それでも右手で一度顔をなでると
しゃがみこみはしなかった
俯いたままにもならなかった

人間は破壊されることはあっても
打ち負かされることはないのだ
昔読んだ小説の一節が不意に頭に浮かぶ

女性は
真っすぐに立ち
その顔は前を向いていた
のたうちまわる龍の進むその先を

A man can be destroyed but not defeated

真っすぐに向いていた


自由詩 2011年の夏に--- An Old Lady And the River Copyright N.K. 2011-07-30 21:50:11
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