手を翳す不安
アラガイs


雨乞いをする鈴虫の鳴き声は鉛筆の芯を削るようだ
次第〃に薄らいでゆく窓
ちいさな発動機の音が近づいて来る
予定はまったくないのに、朝刊のもぐり込む音にまたドキリとしてしまう
時計の針は5時を指し、今日も僕は起きていた 。

胸にマルチーズを抱いたワンピース婦人の肩はひかり、タクシー運転手との会話が気にかかる。
騒音に消された昼
(夜)町の静けさに子供たちは声を殺した 。
この辺りでいつも苛苛しているのは家(うち)だけだろう 。
朝から苛苛していると、何故か警察官によく出会う
とにかくお金を拾ったことが無い 、最近では特に(そう思う 。

「目覚めれば、まず手のひらを開いてみよう」

昨日忘れていた奴と車の中で冗談を言い合っていた 。
嫌な気分のときにはいつもそんな(夢)をみる 。
最後にカクテルを飲んだのはいつだろう
手に持つ空の酒瓶には、血に飢えて抜け落ちた狼の毛が写っている
それを思い出しながら暗い塀のなかでじっと壁を見ていたのは
……………「明日は」 と涙を浮かべて壁に寄りかかり、誰かに向かって泣きじゃくる
たまに逆立ちなんかもして平気な顔をして、「待てよ…」その看守の顔には確かな見覚えがあった 。

白い長い毛の猫を抱いた婦人が船から降りて来て
僕は近くの公衆電話でお金を拾った 。
しかし、そんな夢はもう永遠に期待できないだろう 。

大きなあたまの蟻が一匹、また一匹と砂地に消えてゆく
カラスは飛び交い
奇妙な枝に掴まる長い手で必死にもがいている 。
あたまのなかではいつもわかっていた 。
棺桶の中に眠るのっぺらぼう
それは、誰だろう 。
振り返れば、少しずつ予感された斜面を下っているではないか
そして山を登る
そんな予定は、今も無かった 。









自由詩 手を翳す不安 Copyright アラガイs 2011-07-30 06:21:48
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