切除・2
salco

〈その1〉
乳首の無い乳房をどうすれば良いか
それは一体何になり得るか
これほど寂しい物体はない
これでは彼が愛撫を飽いてしまい
―― この上で赤ん坊は死ぬのだろうか
そんなの嫌だ
そして皆、私が悪いのか?


〈その2〉
さて、その用途
上部を切って、有袋類みたいにポケットに使う
何を入れるか
とっておきのビーズ、川原で拾った石ころ
ハンカチ、抜けた毛髪
聖書の気に入ったページ
ホールデン・コールフィールドの独白も忘れずに
いつか見た青い空
悲しみも入れて置こう

雨が降ったらどうしよう
切り口がズキズキ痛むだろう
私は砂漠に寝転がって
星を数えて眠るとしよう
寝返りを打つ度に、つるつるの乳房はたわんで
中に入れた宝物がジャリジャリと音を立て
その重みを持て余して苦しむだろう
誰が一体触ってくれるだろう 
ビニールの果実
二瘤駱駝の思い出
私はいっぱい泣くだろう
涙で胸は膨張する


〈その3〉
新生物の宣告と処刑
無残な胸を見て、彼は目をそむけるだろう
そして私はいつも
切除された年月を胸に載せるのだ

乳房は切り取られた後どうなるのだろう
ゴミ箱行きか 
何というなれの果てだ
いいか、一つではない、一対なのだ
それは勿論抜けた歯が二度と生えて来ぬより悲しいし
年老いて萎んで行くより寂しいし
卵巣や子宮を切除するよりもっとつらい
私の体はみすぼらしい以上に無惨なものとなり
ああ! 胸の辺りがこんなに軽く、涼しい
あばら骨を大気が刺し
薄っぺらなベニヤ板の下で
その引き攣った傷痕の真下で心臓が冷えて
鼓動が直に触れてくる、聞こえて来る
私はドアの外に耳を澄まし
鏡を叩いて泣くだろう

どうせなら 
海へ放してやれば良かった
そうすれば、きっと泳ぎ出すか
底に沈んで忘れられもしたろうに
私は一対の生き物を、少女時代からの友を失い
そして一生そうなのだ


〈その4〉
私に乳房が三つ生えていたら
ブラウスのボタンを外した時
さっそく真ん中に飛び出す一つ
ストリッパーを取り巻く男達は
どんな口笛を吹くのだろう
無論彼等はいつになく欲情する
そしてどんな風に自分の奥さんのと
頭の中で比べてみるのだろう
乳房が三つ有ったら
人は私を奇形と呼ぶだろう
何で?


自由詩 切除・2 Copyright salco 2011-07-28 21:23:54
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