いない かたち Ⅲ
木立 悟
絵の具のにおい
月に触れる指
何処へもいかない
うたの行方は
異なる星
燃えおちる 燃えおちる
ひとりの内に ひとりは増し
さらにひとり
さらに緑
曇 橋 波 陽
同じところから来て
来たところを見つめる
ただ一度
よろこぶことをゆるされ
そのことに よろこべずに
夜の水銀
紅と響き
はざまに 風はふたつ
むかし逃がした
雨がすぎる
一行 あけておく
蝶の群れが
途切れることなく歩いてゆく
夜の坂に 傾く耳
冠をつくる手
鏡をつくる手に触れ
原を映す
水に見える傷
屋根に 窓に
さざめいている