なみだの虹
yo-yo

100歳の詩人のまつ毛には、虹が架かるらしい。
「涙が出さえすれば、虹になってるんです」という。
ふしぎがりの詩人 まど・みちおの映像をテレビでみた。
「自分のここ(まつ毛)に涙、小さい虹が出てるな、って思うことはできますんで、思うと本当にできてるようで、涙っちゅうのはどんな人でもそうでしょうけど、とっても涙を出した本人に身近なもので、本人が頼りにしているもので、最後の一滴みたいなもんですからね。涙が持ってる虹っていうのは素晴らしいですよ」。
涙に、虹がかかる。想像したら、目がしらが熱くなる。

100歳の詩人は、病院生活を続けている。
夜の病室の机に向かい、クレパスの色を塗り分けていく。やがて白い紙の上に、ひるま見た涙の虹が再現する。
彼だけが見ることができる、小さな涙の中の、小さな虹。
「小さなものの中に人生が見える人」だと、谷川俊太郎はいう。
「顕微鏡の目と望遠鏡の目を併せもっている」人だとも。

顕微鏡の目でアリの世界を見、望遠鏡の目で宇宙まで覗いてしまう。
その詩は、はるかな宇宙飛行士の心にまで届く。
宇宙ステーションで、毛利さんが朗読する彼の詩が、電波にのって地球に戻ってくる。

   生きものが 立っているとき
   その頭は きっと
   宇宙のはてを ゆびさしています

詩人は、宇宙の果てを見つめている。人間はなぜ詩を書くのか、と自問しながら。
彼はいう。
詩を書かないと死んでしまうほどではないけども、生きるための息の次に大事なものがある。それが「言葉」であり、「そういうものが、どうしても出てくるのでございます」と。

何かにつけ「ふしぎな感じ」をもちつづける、100年の習性。詩にしたいと思う材料は、いつでも新しく見つかる。
「世の中にクェスチョンマークと感嘆符と両方あったら、他はなんにもいらんのじゃないでしょうか」という。
疑問符と感嘆符の世界、を見つづける詩人の目。そのまつ毛には、しばしば美しい虹がかかる。







自由詩 なみだの虹 Copyright yo-yo 2011-07-27 06:33:29
notebook Home 戻る