あしたの天気
yo-yo

いつも見ている山が、きょうは近い。
そんな日は雨が降る、と祖父が天気を予報する。
大気中の、水蒸気がいっぱいになって、レンズみたいになる。と誰かに聞いた。
山の襞が、くっきりと見えたりする。
山が近くなる、という大人の言葉が、子どもには分からない。山はいつもの山だったから。

蝉が鳴き始めたから、雨はもう上がる。それも祖父の声。
夏の夕立の後だったかもしれない。
雨が止んだら、河童にだって会える、水をうんと飲め。と家の神様がいう。

秋の夕焼け鎌を研げ、とまたもや祖父の声。
百姓だった祖父は、葡萄山と田んぼをもっていた。
あしたは稲刈りだとばかり、顔を真っ赤にして鎌を研いでいた。
父はそんな家をとび出して、船場で商人になった。体も声もでかいが、田植えも稲刈りもしたことがない。

雨の山と、蝉時雨と夕焼けと……。
祖父も父も、もう居ない。百姓も、居ない。
声だけが残されて、ぼくに明日の天気を教えてくれる。







自由詩 あしたの天気 Copyright yo-yo 2011-07-25 08:00:56
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