ゆうぐれゆらら
凛々椿

夕やみ歩く猫
のし
のし
人ごみと並んで歩いては
立ち止まり
都会が鼻歌まじりに風を歌うのを じっ と聞いている
夏はまだ長い
今日もずいぶんと蒸していて
建物からこぼれる冷気とごちゃまぜになっていて
あの時のように
ああ
またこの季節が来たのかと気づくもう何もかも遅いのだけれど


ゆうぐれゆらら
明かりがあめ玉のように 
ちらばって 
広がって
また
ドーナツ店の店長の気が狂い
居酒屋の客引きおばさんが交差点を占拠する時間がやってくる


彼は
微熱コンクリートに寝そべっては薄目をひらき
「海が見たいかい?」
魔法猫の真似をしては そっぽ向いて
あくびをしては伸びをして
舌を出してはのんきな顔をして
でも時々ちいさく鳴く
だれにも聞こえないように ちいさく
ちいさく
ボクが色白の友達をなくしたことはこの界隈の住人はみんな知っているけれど
彼が灰色の友達をなくしたことはだれも知らない
たとえ知っていてもだれも興味はないし
悲しむ人もいないけれど
見知らぬ人が行き交うこの町が彼のふるさとで
やがて死ぬのもこの町で
君はボクに気づいたのだから
だから
そばにいてくれたらと思う
夜の間だけでも











自由詩 ゆうぐれゆらら Copyright 凛々椿 2011-07-24 22:43:14
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