殺りく愛
しもつき七

水浸しの裸を抱いた。夜のどくどくと凪いでいる日々だった。



川はあかるく光を受けて、真っ赤に血液のようにきっと球体をはこ
んでいく。すべての一過性がここで収縮している。看取り、看取ら
れして、色んな平穏とか従順とか、子供時代までもが、性愛にまじ
って死に絶えたのをしっていた。


血、眼、球


どこまでも黒く濡れた髪、頬にかかる、鎖骨のしるし。内臓がしき
りにふるえているような気持ちがする。平たい切っ先をおしあてて、
薄い皮膚のページをめくる。美しいからもう視力はいらなかった。
西日が射す、絶対的な、これが悲しみ。


  嫌いになってほしい。毎朝、夜が、すこしずつ狭くなるから、
  あなたを何度でも定義しないといけなくなる。からだを起こす
  ごとの死。好きなんて、いわないでほしい。



「いやらしいことを、一度、二度、したから私たち愛で関係してい
るなんて、おもってないよ、密度がちがったね、それから音程も、
あってなかった」


あらゆる前日が立っている。ひからびた川のへりを、月があぶりだ
して絶対にかがやかない。湿った額の静謐さ。手をかける首のたよ
りなさ。充血。完熟。たりない。ない。


きらめく、たしかな質量をもった水の、楕円上にかさなって、ひと
つの体温の低くなるのをとても感じる。赤い。宛てがった肌の面積
がそのときなにより明白な、血だった。歌う口。聞かない耳。曲線
だけで構成された体のいっとう奥を見たかった。見た。夜だった。


濁流
いらないいらないいらないものが、夥しいね、意味、ひとつだけあ
たえて、それ以外ぜんぶ放棄したい、だいじなことを解りたい、空
が翳るまでまみれたい、この水、あなたの、



川は水かさを増す。類いまれなる赤さを保ちながら、はみださない
ように、死んだみたいに凪いでいる夜のたもとに沿って。いつかね
じれた時間軸の、どこかで再び会って別れる。
そのための。



自由詩 殺りく愛 Copyright しもつき七 2011-07-23 21:11:25
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