モラトリアムの夏
nonya
頼りなげな黒い煙は
空に還ることもなく
密閉された風景の中へ
呆気なく取り込まれていった
昨日の端から一刀両断に
切り離された時空に
冬物の黒い服を着せ
ひたすら透明な汗をかいていた
鉄の扉からひきずり出された
あなたの白い欠片を
何の感情も込められずに
扱いづらい箸で拾った
あなたはここにいない
最後にあなたが
言い残した言葉を忘れようとして
飽きるほど探した逃げ道は
どれも袋小路
もうひとりの自分が
始まってしまった朝の記憶は
ますます鮮やかに
目の前に垂れ下がる
どうしても
やって来てしまう
モラトリアムの夏
引き千切らなかった鎖は
懐かしく錆びついて
はびこる夏草の間で
土に還ろうとしている