さいなら
ズー
蜘蛛の子のように飛び散った字で書いてあった
あなたという人のために書いてあった
ぼくの水色のバンのワイパーにはさまっていた、かみきれに、
ぴらろーん、んぴらろーんと、揺れていた、その、かみきれには、こんなことが、書いてあった
きみがきれいだと誉めてくれた、わたしのぴーちゃんが、隣の家のこどもに、いじめられ、とべなくなった、わたしたちの小鳥が、みあたらない、今朝の部屋で、こうして、あなたに手紙を書こうと、みすぼらしい髭を剃り、寝癖を整え、ペンを握り、きみと買いに行ったグラスを、重しがわりにし、やあ、とだけ、書いた紙の上に、何時間も頭を沈めているのが、今の、わたしなのです。
昨夜、知らない少女の夢をみました。
胸元の辺りにマーガレットに似た青い花と、妖精のような紋白蝶が、レイアウトされている白い肌の女の子の、夢です。
もう、やめなよと言う、わたしや、いくらかの紙幣を握り、騒いでいる男どもや、惑星の終わりにみせる、ひかりの粒をあしらった、下着姿の女どもに、彼女はポールダンスを、みせつけてきました。
なだらかな谷間に、紙幣が突き立てられ、溢れ、ついに、彼女の腰は、ブーメランのように飛んでいき、もう、やめなよと言った、わたしにむかい、少女は、「わたし、詩をかくわ」と言うのです。
あなたの声に、とても、似ていました。
それから、あなたの腰は、ブーメランのように、かえってきて、下着姿の女どもは、消滅した惑星を想いなきだし、騒いでいた男どもは、谷間から溢れた紙幣の皺を、黙々とのばし続けて、紋白蝶は蛹に戻り、青い花はぽとりと落ちて、わたしは、あなたに「詩なんて、もう、やめなよ」と、書き綴ることしか、できなくなる朝を、迎えるのです。とべなくなった、ぴーちゃんの、隣の家の子が、いじめて、みあたらない、小鳥の、ぴーちゃんの、羽の、先端の、いじめて、隣の家の子が、とべなくなった、羽の、ぴーちゃんの、とべなくなった、先端の、あなたに、手紙を書いてます。わたしはあなたに、こうして、手紙を書いています。ぼくは、この、かみきれに、平凡と名付けてから、ワイパーから抜き取り、 水色のバンを走らせている、どこかにぴーちゃんがいるであろう街の風に、さいなら、さいならと、捨てたのです