祖母
草野春心



  祖母の家で
  祖母と話す
  昔ながらの広い居間
  たっぷりの朝日が射しこんでいる



  通っている盆栽教室のことを
  嬉々として話す
  新しく入った若い女の人
  もう来なくなってしまった人のこと
  次は自分の番だと
  けらけらと笑いながら話す



  祖母の手は皺くちゃで
  ところどころに染みもある
  それは紛れもなく
  僕の母を育てた女の手だ
  七十八年
  ちょっとした歳月
  あなたが泣いているところを僕は見たことがない
  九年前祖父が死んだときも泣かなかった
  自分の娘が先に死んだとしても
  あなたは泣かないだろう



  あなたはいつまでも話し続け
  屈託なく笑い続ける
  ふいに僕は
  周囲のすべてが
  溌剌とした朝の光が
  庭の草木が
  白い壁が
  僕の体へ押し寄せてくるのを感じる
  それは波だ
  僕は打ちのめされる
  僕は粉々に破砕される
  僕は押し流され



  どこかわけのわからないところで
  いつか僕は覚醒する
  あなたが死ぬとき
  僕は声をあげて泣くだろう




自由詩 祖母 Copyright 草野春心 2011-07-22 08:41:03
notebook Home 戻る