長押 新


私は流木だった
唇の皹の上に小鳥がとまり
眠っている瞳を開けようと歌う
そして愛着のある皮膚を
剥ぎ取っていってしまう
もうわたしではない唇
しがみつく砂の粒を
数えているところだったのだ
それがひどく痛かったのだ
川の上を回転する流れ木
沸き上がることのない水に
浸っているかなしみ
かなしみをみているのは小鳥だ
わたしには知れないこと
光はみえている
夜になればわたしを離れ
ここにいないのだから
わたしがここにいることを知らない
夜になれば
わたしには知れないこと

森が燃えている
鳥が鳴いている
獣は逃げようとしているだろうか
凛々しい筋肉が跳び回る
光をたよりに跳び回る
森の一味の会話が聞こえている

大きく揺られた木々が
声を幾億にもわけていく
光がみえている
こんなに眩しいと片目で十分だろうと
半分沈みかけた私の上に降る雨
いいや雨ではない火の粉
あんなに静まり返っっていた森が
生きている
森が生きている
森が生きている
森が生きている
赤々とした炎が浮かび上がる
その陰にひそんでいる
natthi r gasamo aggi
natthi r gasamo aggi
natthi r gasamo aggi
流れ木のための鳥が死ぬ
燃えている火を揉み消そうと
腕を焼かれていった
そこにいたはずのものたち
どこへいってしまうというのか
ただ土になっていく
生きているのにひどく静寂な
ただ土は土になっていく

火と森をわけることが
そこにいた誰にもできずに
夜だというのに燃えている
私は流木だった



自由詩Copyright 長押 新 2011-07-21 18:24:49
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