近松門左衛門の町
非在の虹
白昼 女である私は童貞の硬いペニス
ト なって近松の町にたつ
すべての人に向かって存在理由を述べる すなわち
私は恋人を待っている!のである
ト 待たされる時間は私の頭部を透明な体液であふれさせてしまう
そんな私に町の人々はまだ気づかない
見れば町行く人々はみな動物の屍骸を抱えている
いや作り物の動物だ
だれもかれもがだ そのせいか私に気づかないのだ
はなはだ不本意だ 注目される私を私は私の恋人に見せたいとても
見せたい
辛吟の時間はあまりに永くその時間が私を巨大にしてしまう
恋人は約束の遅刻をする
恋人はていねいに遅刻をわびてなよやかにも暖かいヴァギナ
ト なる そして私のフラストレーションにみあう巨大化をしてくれる
さっそく私たちは恋人たちのすることを始める
そのさいの動きは、重力を感じさせない極めて文楽的である
ト 町行く人々もようやく解ってくれたようだ
体液も血も流れるものは流すべきだ
ト 賛辞といっしょに唾を吐きかける(作り物を放り出し)
「しんじゅう!心中!」
この時のために 私は恋人を待ったのだ
この時のために誰かが私の恋人にならなければならないのだ
だが 私たちは思いもかけぬ速さで黒衣たちによって定式幕にくるまれ
運び去られた
私の叫び声は人々に聞こえただろうかそれはすなわち こうだ
「私こそ近松門左衛門なのだ」 ト。