近松門左衛門の町
非在の虹

白昼 女である私は童貞の硬いペニス
ト なって近松の町にたつ 
すべての人に向かって存在理由を述べる すなわち 
私は恋人を待っている!のである 
ト 待たされる時間は私の頭部を透明な体液であふれさせてしまう
そんな私に町の人々はまだ気づかない
見れば町行く人々はみな動物の屍骸を抱えている
いや作り物の動物だ
だれもかれもがだ そのせいか私に気づかないのだ 
はなはだ不本意だ 注目される私を私は私の恋人に見せたいとても 
見せたい 
辛吟の時間はあまりに永くその時間が私を巨大にしてしまう
恋人は約束の遅刻をする 
恋人はていねいに遅刻をわびてなよやかにも暖かいヴァギナ
ト なる そして私のフラストレーションにみあう巨大化をしてくれる 
さっそく私たちは恋人たちのすることを始める 
そのさいの動きは、重力を感じさせない極めて文楽的である
ト 町行く人々もようやく解ってくれたようだ 
体液も血も流れるものは流すべきだ 
ト 賛辞といっしょに唾を吐きかける(作り物を放り出し)
「しんじゅう!心中!」
この時のために 私は恋人を待ったのだ 
この時のために誰かが私の恋人にならなければならないのだ 
だが 私たちは思いもかけぬ速さで黒衣たちによって定式幕にくるまれ
運び去られた
私の叫び声は人々に聞こえただろうかそれはすなわち こうだ
「私こそ近松門左衛門なのだ」 ト。


自由詩 近松門左衛門の町 Copyright 非在の虹 2011-07-17 10:07:23
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