半夏生
砂木

回線の影が鳴り始める
たくさんのおまじないを用意して
咲かせたい花があった

くるくるとダイヤルをまわす
つながらない番号はないはず

私だけ 年をとってしまったわ

陸橋を運転しながら アクセルを
飛ばしすぎてやしないか考えた
昇っている太陽だって
とても遠くにあるのだから
こんなにまぶしくても焼かれても
共に生きる事はない

私だけ 私だけ 年をとってしまったわ

そこの道を真直ぐに行って 右に曲がると
おいしい串カツ屋さんがあってね
是非 おすすめなの

オー ファイト オー オー オー

泣けない私の代わりに 泣いてくれたあなた
どうしてあなたが泣くの
他人のあなたに 関係ないでしょ

オー オー オー
どうしても泣けない私の代わりに 手をとってあなたは

しっ と人指し指を口元にあてて
えんぴつとメモ帳をさしだした人
声をだせないから 筆談にしよう

大丈夫か
大丈夫だ

書く事はまるでなかった 大丈夫だ
私だけ 私 

畳みをかきむしるのがおもしろかった
傷だらけになってゆく畳をみると気持ち良かった
大丈夫だと言っているじゃない 
爪に 感じる痛みがここち良かった

蹴飛ばすものは なんでも良かったけど
私は蹴飛ばさなかった
だって なくした悲劇より 喜びの奇跡の方が
いつかという約束も束縛もない ただの縁の方が
信じられる 

年をとってしまった 
私だけ 私だけ 年をとって

手をつないで守ってくれている
いないのは いないという事だけだ
どこに会いにいけるのか
影の回線をそっと回す

私だけ 年をとって
しまったわ オー





自由詩 半夏生 Copyright 砂木 2011-07-15 21:20:41
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