シャボン玉
nick

ちーちゃん
そう呼ばれていた昔のわたし


まま、まま、楽しい夢をみたの。
やっと補助輪なしで乗れるようになったよ。
ねえ、花札かオセロしようよ。
お昼ごはんは、ラーメンがいい。


本の間に挟んでいた記憶
少しずつ少しずつ剥がれていった

拾った落ち葉にも
蝉の抜け殻にも
クリスマスの飾りにも
花弁が溜まった池のそばにも

どこにでもわたしは居た
走り回り、空を飛んだ


ぱぱ、ぱぱ、今日はおうちに帰るの。
車のそうじ、ちーちゃんもやる。
ねえ、公園でシャボン玉しようよ。
ごめんなさい。ごめんなさい。


何となく見つめてきたコンクリートの白線
ランドセルに反射する太陽光を嫌う

投げかけてためらってばかにして
笑いあってびっくりして
ふくらんで冷めて星を見上げて

埃をかぶった本
ビー玉を転がすと
リズミカルに階段を落ちる


まま、ぱぱ、
ちーちゃん、もう自分のこと
ちーちゃんってよぶのやめる。
はずかしいから。


祖父が死んだ日
流した涙は一番多くて、一番きれいだった
そのことだけがわたしを安心させた


ちーちゃんは、もうどこにも居ないけれど
シャボン玉を追って
わたしは走りだす


自由詩 シャボン玉 Copyright nick 2011-07-15 16:13:35
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