迷いの森
nonya


息を押し殺して
手のひらでそっと囲んだら
金色の鱗粉を残して
忽然と消えた

紫色の残像は
一瞬だけ切なく薫った後
押し寄せる後悔の波に
さらわれていった

視界の端をくすぐるように
妖しく翻る紫色の斑紋に
鼻先の好奇心を引きずられるまま
深く分け入った森の中

計ることも
比べることも
何も意味を成さず
あらゆるものが
ただ在り続けようとするこの場所で
自分の存在の頼りなさに
たじろぐばかりの僕は
やみくもに出口を探していた

踏みしだいた草から立ち上る
青臭い悲鳴に眩暈がする
けもの道をさまよう不安が
蝉時雨となって全身に突き刺さる
けたたましく降り注ぐ鳥の声に
見上げれば空は高く遠い
汗ばんだシャツが冷たく張りついた
背中に五感の囁きは届かない

磁石よりも風のにおいを
地図よりも山の面立ちを
そんなことすら忘れた者に
道標などない

ここは
迷いの森




自由詩 迷いの森 Copyright nonya 2011-07-13 21:46:00
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