インセクトライフ
yo-yo

草の実は、苦くて酸っぱい。
子供の頃から、虫は好きだった。
うつむく生活を続けていたら、とうとう草むらの中に、顔を突っ込んでしまった。
緑色の空気がいっぱいだ。これで虫になれるかもしれない。そう思ったら手足が自由になった。
もう虫として生きるしかない。

ヒトのままで生きるには、夏は暑すぎる。冬は寒すぎる。ややこしいことが多すぎる。
まともにヒトらしくなんて、これまでもやってはこれなかった。これからもやれそうにはない。
いまは虫のほうが居ごこちがいい。不安定な日常でも、黙って埋没しておれる。
地べたを這っていく、草の中を潜っていく。道はないから、体を折りまげたり伸ばしたりして、虫もいのちを、ぎこちなく生きている。
虫にならなければ解らないことだった。

ふしぎだ。目をつぶると空が見える。
不確かな記憶のように、大きくて白いものが浮かんでいる。
やがて消えてしまう夢のかたちに似ている。
夢ならば、明日にはほとんど忘れているだろう。明後日にはもう思い出せないだろう。
夢もいのちなのだろうか。虫が、虫の夢を忘れ去ったら、こんどはヒトの顔をして歩き出すのだろうか。
いまは、草の匂いのするあの雲を齧りたい。







自由詩 インセクトライフ Copyright yo-yo 2011-07-12 05:54:13
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