狂気の冷徹
シホ.N


この真昼
かいま見る
白日のさなかに
真夜中の闇
見てはならぬものを見て
見ぬふりをしたくなる
光の中に
あってはならないはずの
漆黒のかげ

光はあるのだ
たしかにあるのだ

真昼の雑踏
不意にかちあう沈黙
針が重なる正午の一瞬のような
見えない静けさに満ちる道

ほら今あそこの
ブロック塀が道に落とす
くっきりと黒い影
もっというなら
そのブロックの継ぎ目のわずかな
細くしかし深い闇

そしてそれらもすべて方便の姿
あの漆黒そのものでない

たとえば輾転として目覚めている夜
闇の中に光の幻を見る
でも今見るのは
それの裏返しではない
逆転現象などではない
たしかに見る白昼のさなか
夢のようなしかし

実在する
漆黒のかげり

闇の中に見える光のあしは
人の幻覚の常なるもの
として
一点の曇りもなき
燦燦たる光の中に見る
漆黒のかげりは
見えないものを見る人の
抜き差しならないリアリティ

視界のきわを横切るかげ
それはいかなる弱者の
乱視であったか
ひそかに疾駆する漆黒は
いかなる
それも人の常なる
狂気であったか

それでもなお見る漆黒のかげり
狂気を狂気とあえていう
正気じみてる狂気の冷徹



自由詩 狂気の冷徹 Copyright シホ.N 2011-07-11 12:55:05
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