水引草に風が立ち
yo-yo

雑草が覆いかぶさる細い道をゆく。
小川のそばに、水引草が咲いていた。
山の麓のさびしい村。24歳で夭折した詩人の夢が、いつも帰っていった。
その夢のほとりを歩いた。

小さなあかい花。見過ごしてしまいそうな花だった。
ぼくの夢に出てくることはないだろう。そんな目立たない花だ。

   水引草に風が立ち

詩のことばが、風のように辺りをそよがせた。
帰っていったのは夢だったのだろうか、風だったのだろうか。
たよりなく夢の果てをさがした。

ぼくの夢は、まだ帰ってはゆかない。旅の途上にある。
行き止まりも、その先もない。はじめての道をたどってゆく。
小川の水は、濁るでもなく澄むでもなく、やさしい音をたてて流れていた。
活火山の山の肌を洗った水。溶岩の匂いがする。

   夢は そのさきには もうゆかない

浅間山の麓でみじかく眠る。
きれぎれの夢のはざまに、水引草の栞をはさんだ。



     
* 引用の詩は、立原道造『のちのおもひに』








自由詩 水引草に風が立ち Copyright yo-yo 2011-07-08 06:49:56
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