空白にかえる
ズー


教会にいく日曜日まで
まだ何日間かあった朝に
ぼくはゆびさきにひとつ
ひとつ、あなたに纏わる
ことばをつけて
黒目の上にのせていた
瞼の裏側に一文字だけ
引っついて、痛がゆく
なってきていたぼくは
鏡にうつっている自分に
こう、言い切れたはずだ
ぼくのなかに入れた
ことばたちはあなたを
信じる天使みたいな
ものなんだと、
実際にはそんなこと
ばからしくて言えなか
ったけど、空白になった
本の一部分にあなたの為
だけの、ことばを
書いてみた

「イエスさま、
ぼくの涙をみたことが
ありますか?
ぼくはないんだ
でも、時々ぼくの涙を
夢のなかで想像している
夢をみる日があって、
ぼくは、あなたのゆびを
うん、そう、十本すべて
のゆびを、ぼくの
からだに入れてほしい
朝があるんだ」

「そんなの嘘だ」って
いいたくなるくらいの
飴細工みたいな髪を
束ねた女の子が毎日
僕の家の前をスキップし
ながら通りすぎた
きれいな女の子だった
その光景を
生意気な弟と、ぼくらも
ひどくささくれ立った家
の窓枠にしがみついて
ほとんど毎日眺めていた
その、ぼくらの背中を
母さんは夏のあいだ中
眺めていたってわけ
なんだけど
秋と、冬をすごした頃に
きれいな女の子のことを
尋ねても
「おぼえてないわ」と
言うだけになり
ぼくらもいつの間にか
話題にしなくなっていた

「イエスさま、
あの子をみたことが
ありますか?
ぼくはあるんだ
ぼくの涙を想像している
夢のなかで、あの子の
髪は一本残らず、ぼくの
涙でぬれて、飴細工を
束ねる、あの子は
スキップをしながら
青い空に吸い込まれて
いく夢をみる日があって
やっぱり、ぼくはあなた
のゆびをすべて入れて
ほしくなる朝があるんだ」
教会にいく日曜日に
父さんからくすねて
おいた煙草に火をつけた
けむりがしみる、瞼を
とじると、裏側に
引っついていた一文字が
天使のことばが
空白にかえっていた


自由詩 空白にかえる Copyright ズー 2011-07-06 00:12:49
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