返り咲きの幻想
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余生を愉しむ老人を
嗤う蠅がぐるぐると
周りを旋回し始める
し!しっ!死ィ!

彼らはセイメイ意地装置なんかを使って
きっとしぶとく生き続けるのでしょう
代わりにワカモノを差しだしたいのでしょうけれど
くしゃくしゃの顔から感情がみえない
((おばあさんはくしゃくしゃの表情を
   どうやっても変えない  ))

老人たちの午後は跡も咲もなく
とんとんと毎日繰り返され
涙を流しながら庭のトマトの心配ばかりしている
トマトはおばあさんよりも元気に
アオ臭い匂いでいっぱいの実をつけていた

おかしな時間だった
わたしは喜んで彼らの威厳を守ってあげますよ
生産性のない病室だった
血液はぐるぐる蠅のように旋回して
無機質な白だった
血はトマトの赤だったかしら?

蠅をぴしゃりと素手で潰した
(あまりにも嗤い声が耳触りで
黒ずんだ血が流れていました
おばあさんには
それから
会っていない



自由詩 返り咲きの幻想 Copyright c 2011-07-05 04:34:49
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