ひとり ひびき
木立 悟
ない花の
ない花言葉
曇と光に
隔てられる朝
あなたには誰もおらず
聞き耳をたて
鼓動はひとつ
あなたしか あなたにはおらず
雨の羽虫
水に映らない
花は鳥を向く
鳥はすぎてゆく
あめつち
流氷 ひとつ忘れて
あかつき 手のひら
もっと上へ
暮れの道
むらさきの音
どんな夜が来るかもしれず
このまま夜は無いかもしれず
息が弦の
弦が息
忘れることのない夢の
つづきにめざめ ふたたび積まれ
水紋のあなたが立ち上がり
夜の横顔をすべらせるとき
映せるものと映せぬものとの
骨の数の決め事を失う
無音に半ば折られながら
夜の原に立っている
あらゆるものが音にまたたき
色づきはばたき 突き刺さる
においの下の
まるいかたち
満足な手のひらには
従わぬかたち
抄いもせずにこぼれる
見知らぬ横長のかたむきを見ている
空からは無色の
みどりを見ている
水に映らぬ羽の道
むらさきの目の まばたきと花
いくつもの無音のあつまりのような
ひとつの朝をすぎてゆく