ぼくの大好きなあなたのための狂想曲(カプリッチオ)
草野大悟

今夜は、大好きなあなたのために、カプリッチオを・・・

同じ大学病院に、医師として二人で勤務するようになって六年目にやっと、妻と同じ日程で夏休みが取れ、家族旅行に出かけようとしていたその日、チャイムがなった。宅配業者の格好に、何の疑いもなくマンションのロックを解除し、玄関を開けた。

空色の顔をした三人が、カッターを手に部屋に入ってきた。三人は、無言のまま、私と妻と娘を後ろ手に縛り上げ、口にガムテープを貼り、床に転がした。

私と小学二年の娘の目の前で、妻の服がゆっくりと切り裂かれ、幼稚園から大学まで新体操をしていた形のいい白い尻がむき出しになっていく。
男が、妻を腹這いにして、ペニスをその尻に突き立て、はじめはゆっくりと、次第に激しく腰を動かす。
「やめろ、やめろ、やめろ」と叫ぶが「ウー、ウー、ウー」としか聞こえない。
妻の大きな目から涙が溢れている。

二人目の男が、妻を犯しはじめた。何度も何度も白い尻が犯され、妻の尊厳を根こそぎ奪い去っていく。妻は耐えていた。自分でも理解できない何かが全身にひろがっていこうとしているのを、必死に押さえようとしている。男が、手のひらでビシッと尻を打ったそのとき、突然、妻の全身がガクガクガクッと痙攣した。

三人目が、ビデオを回しながら言った。
「先生が、手術に失敗して私の妻を寝たきりにし、私たちの夢を全て奪ったあの日から六 年間の私たちの生き地獄の第一章を、お届けしますよ、先生。YouTube公開のお まけもつけてね」
ときおり、ひくひくっと痙攣する妻の白い尻をぼんやりながめながら、私はその言葉を聞いていた。 


自由詩 ぼくの大好きなあなたのための狂想曲(カプリッチオ) Copyright 草野大悟 2011-06-29 22:08:35
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