現代ホラー映画 2011年 夏の10選
古月

こんにちは。ちょっと前に現代ホラー50選なるものを独断と偏見で選んだんですけど、このたび土屋 怜さんから「この夏を乗り切る、ホラー10選とか、載せて下さったら、非常に嬉しいのですが…」というリクエストがあったので、またなんとなく選んでみました。
かなり幅広くオールジャンルで選んでね!といわれたので、前回の50選で惜しくも漏れたものを中心に、まあ前回の延長戦みたいな感じで10作品選んでおります。
超長いですけど、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
並びは今回も五十音順で、テンションがおかしいのは仕様です。


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1.『エクトプラズム 怨霊の棲む家』
突然ですけどこの映画は、アメリカはコネチカット州に実在する幽霊屋敷と、そこで実際に起きた事件を題材にしていますよ。
幽霊屋敷を題材にしたホラーは、たくさんあるようなイメージがあるが案外少ない! そして、万人に勧められる名作はもっと少ない!
いくつかメジャーな幽霊屋敷映画を列挙してみると、『シャイニング』、『たたり』、『地獄につゞく部屋』、『家』、『ヘルハウス』、『悪魔の棲む家』、『ポルターガイスト』、『TATARI』、『ホーンティング』、『ローズ・レッド』、『13ゴースト』、『スウィートホーム』、『HOUSE』といったところか。
この中で文句なしに他人に「面白いよ!」と勧められるようなザッツエンタテイメント作品は、個人的には残念ながら『ポルターガイスト』くらいしかない。いや、『シャイニング』とか『悪魔の棲む家』とか残りのタイトルも確かに超名作なのだけれど、ホラーに興味のない人や疲れている人は、きっと寝ると思う。自信あるし。
なんかね、言っちゃ悪いけど家モノって退屈だったり、大味だったり、怖くなかったり、いろいろ難しいところですよ。基本的に幽霊屋敷映画とは「味わい深い」ものであって、分かりやすい面白さとは遠いところにあるのかもしれないですね。
で、この映画なわけですが、これは近年まれに見る快作でビックリですよ。
ガンで余命わずかな息子の治療のために、無理して遠方に家を借りる母親……というしみじみしたオープニングから早くも「これは家族愛の物語!」というサインがバンバン出ている。そう、これは幽霊屋敷という試練を通じて、壊れかけの家族が再生する物語。そう言われたらちょっと見ようかな?という気になるでしょ! ホラー苦手な人も、がんばって見ていただけると幸いです。
ガンを患う主人公の少年の演技は流石の一言で、この子が感情移入しやすいキャラクターであるところがこの映画の一番の成功の秘訣だろうね。
そして中盤から登場する神父! 彼がまたいい! 出番こそそんなに多くはないものの、その言葉はとてもとても印象に残る。そして伏線としても美しく機能する。「この映画のここが凄いんだ!」と、いま具体的にいえないのがほんっとーに残念だわ。
あ、残念といえば話は変わるんですけど、なんでアメリカの幽霊の描写ってちょっとモンスターっぽい誇張のされ方をするんでしょうね? この映画も「やりすぎて逆に怖くない」の見本みたいなスタイルで、一向に身の危険を感じないのだがががが……! これは興行収入を重視する製作会社の意向なのだろうかと勘ぐってしまうレベルの健全さで、個人的には残念でしたね。
まあそんなわけで、「怖いところはしっかり怖いけど制限速度は守るし、登場人物がみな愛すべき人物なので安心」という絶妙な匙加減のハートフル映画なので、「あんまりエグいホラーは見たくないけど、夏だし涼しくなりたいわ! ただしスプラッター以外で!」みたいな人にオススメ。
あ、そうそう。父親が禁酒しているという設定が最初は非常に分かりづらいので、これは覚えておくといいかも。


2.『オープン・ウォーター』
沖合いにダイビングに出たら、サメのいる海に置き去りにされてしまったでござる、というだけの映画。んで、これも実話。事実は小説よりも奇なり。
よく出オチのネタ映画とかシチュエーション一発の映画みたいな言われ方をする不遇な本作だが、別にそんなことはなくて、実際見てみればちゃんと怖いので安心してほしい。怖いっていうか「うわあ……(気まずい沈黙)」って感じだけどね。
なんだろう、とにかく夫婦間の気まずさというか、極限状態の心理というか、人間って利己的な生きものなのねーっていうか、そういうものが一周まわって逆に結束とか思いやりになったりというか、はっきり言ってこれはよくできていますよ。
ぶっちゃけ僕も最初は「80分も夫婦ゲンカ見たくないわ……」と思って敬遠していたけど、いやいやどうして、これは面白い。特に大事件が起きたりはしないんだけど、大海原という絶望的な環境が真綿で首を絞めるように夫婦をジワジワと弱らせていくのね。このジワジワってのがポイントで、斧でアタマをドカンとブチ割られるよりも、人間が肉体的にも精神的にも徐々に衰弱していく様を眺めるほうが、はっきりいってずっとキツい。だからみんな安心して見よう。そして凹もう。
ちなみに、この映画のモデルとなったローナガン夫妻の失踪には諸説あって、転勤先に不満があったことや自殺願望があったことなども判明しており、中には「身を隠すための計画的な偽装自殺」ではないか、という説まであるらしい。映画よりそっちのほうがミステリアスで面白いっつーの。
監督はクリス・ケンティス。「ちょっと珍しいカメラあるし、これで映画とろうぜ!」という思いつきで始まったこの企画だが、興味深いのは、この監督の家族は仲が異常に良いっていうこと。こんな映画撮ってるくせに、メイキングではラブラブ、ていうね! というわけで、本編で凹んだら、メイキングを見ましょう。なんかほっこりして、色々どうでもよくなります。
ちなみに続編の『オープン・ウォーター2』はドイツ映画で「どこが続編?」って感じ。
もうすぐDVDがリリースされる『オープン・ウォーター 第3の恐怖』、八月に劇場公開の『オープン・ウォーター 赤い珊瑚礁』など類似のタイトルもあるが、どちらもシリーズの関連作品ではない。でも、『オープン・ウォーター 赤い珊瑚礁』は超面白そうなのでみんなもチェックしておいてね! 前売り券を買うとサメピー(鮫キューピー)も貰えるよ!


3.『コールドプレイ』
ロアー・ウートハウグ監督による、曰く「ノルウェーで最も怖い映画」。すいませんこれ大袈裟です!
あんまり話題になってないけど世間では思ったより知名度がないのかな? ていうか、世間的にはむしろノルウェーってどこだよって感じなのだろうか。
最近のノルウェーはホラー映画の俊英を何人か輩出しており、けっこう要チェックな国だったりする。ノルウェイの森で若者がスナッフフィルムを撮影しているガイキチ一家に襲われる『REAL●』とか、雪山で医学生がナチスゾンビとドタバタの死闘を繰り広げる『処刑山 デッド・スノウ』とかね。
ちょっと前置きが長くなったが、本作『コールドプレイ』は、吹雪によって陸の孤島と化した廃ホテルで若者たちがツルハシを持った殺人鬼に襲われるという、まさにスラッシャーの手本みたいな作品です。まあ、逆に言えば地味ってことでもあるが。
スノボしようぜ!というわけで雪山にやってきた若者五人組だったが、一人が骨折してしまい、近くにあった山荘に避難することに。だが、そこは以前に経営者の息子が行方不明になったことで知られるいわくつきの廃ホテルで……と、お約束みたいな感じで物語は展開。五人組の内訳も「カップル二組とダメ男一人(骨折中)」というわけで、ダメ男を放置してカップルどもは思い思いにイチャイチャしたりするわけだが、そこを殺人鬼がひとりずつ、というのもお約束。お約束イイネ!
とはいえこの映画、なんか微妙に傑作になれそうなのになれないっていうか、どうにも中途半端なんだよね。その原因はずばり、殺人鬼のインパクトが弱い! これに尽きるのではないだろうか。
この殺人鬼、無敵の怪物ではなくて普通の人間という設定なのだが、どうも中途半端な強さなんだよね。この中途半端さがね、なんか……うーん、弱いよりは確かにいいんだけど、なんかフラストレーションの溜まる程度の強さっていうか。タフネスだけ異常に高くて後は普通、みたいな感じか。なもんで「この絶体絶命の状況をどう生き残るか!」というスリルは薄い。むしろ「やれるよ! いまチャンスだよ! やれるよ! あ……あ、あ、あー! なぜやれなかった!」って思ってしまって、登場人物の焦りや恐怖にうまく感情移入できないんだわ。
でもまあ、最近は直球のスラッシャー映画ってあんまりないので、こういう手堅い作りの映画が製作され、しかも大ヒットを飛ばし、3作目まで作られているということをホラーファンとしては素直に喜び、応援したい。ノルウェーがんばって!
ちなみに続編の『コールデスト』は、本作のラストシーンからそのまま始まる完全な続編なので、こっちもぜひ見ましょう。どんなんかって言うと、本作の生存者と殺人鬼がいっしょに病院に担ぎ込まれて、その病院で再び惨劇(と書いてリベンジマッチと読む)が……!みたいなベタなやつですけど、だがそれがいい。
あんまり褒めてないような気がして不安になるが、まあ正直な気持ちだし、自分では非常に的確だと思っている。無責任に「おもしろいよ!」とか書いといて面白くなかったら悲惨だしね。
でも好きなシリーズなので、3作目のリリースが待ち遠しいです。


4.『シャイニング』
いまさら見てない人もいないと思いつつも、古典からひとつ紹介。エンディングの意味不明さに、思わず誰かに「あれどういう意味?」って聞きたくなる超ステキ映画。
ついさっき「シャイニングは退屈で眠くなる」とか言ったくせに紹介する厚顔無恥ぶりだが、まあ大目に見てください。なにしろどんな傑作でも、人を選ぶというのはあるのよ。
巨匠スタンリー・キューブリックによる、問答無用のビジュアルイメージで海馬を直接逆撫でするような作風が素敵。ただし原作者のスティーブン・キングはこれにずいぶんと不満らしく、あとから自分で作り直しちゃったけど……。
この映画、佇まいはホラーというよりもむしろ文芸映画のそれであり、恐怖映画を期待して見始めた多くの人は、この物語が非常に淡々と進行することに拍子抜けするかもしれない。だが、それが逆に罠なのだ。
地を這うようなローテンションの不安感をベースに、随所で突如挿入される不穏なシークエンスの数々が不安の種となって心の奥底深くに播かれていく。そして、その不安の種は最後まで芽を出すことなく、心の中で腐ったまま終わる。ななな、なんだってー! この映画は伏線回収や論理的帰結のようなものを一切放棄している! そして、その「えええー」みたいな投げっぱなし感が逆に、鑑賞後10年とか経っても折に触れて思い出すような「正体不明の厭さ」に繋がるってわけなのですね。
なわけで、ジャック・ニコルソン大熱演の怒涛のクライマックスが終わっても、観客の頭には「で、あのシーンはなんだったの?」ていう疑問符が残りまくっている。そして、「やべえ、なにひとつ解決してねえ……」という『終わってなさ』がマジで気持ち悪い。
普通は物語の作法としてある程度の謎解きや背景の説明が行われて、このオーバールック・ホテルという存在についても一定の解決、論理や因果による解体がなされるべきなんだろうと思うけど、こと『シャイニング』においては、「オーバールック・ホテルという大いなる存在に対して人間はあまりにも無力だった」というだけの突き放した結論しか出ない。謎は依然として謎のままで、憑き物が落ちないのね。ここが数多のホラー映画とは違う、唯一無二の魅力なのだろうと思う。キューブリックの作風が良いほうに働いた……んじゃないかな! 完全に!
なお、DVDには「143分版」と「119分版(コンチネンタル・バージョン)」があり、1999年に発売されたものが「143分版」ね。ブルーレイは119分!
個人的には製作者の意向なので仕方ないとは思っているが、24分のカットはさすがに許容できないので、できれば143分版を見ていただきたい。レンタルショップ等にはおそらく置いていないだろうが、アマゾンのマーケットプレイスには3000円台という手頃な価格で売られているので、気が向けば買ってください。(もっとプレミアついてるかと思ってたので驚いたわ)
ちなみに前述の『エクトプラズム 怨霊の棲む家』にも、非常に分かりやすいっつーか露骨すぎて笑いが起きるレベルのオマージュシーンがあるので探してみてね!


5.『処刑山 デッド・スノウ』
「海に行けばよかった・・・」のキャッチコピーがむやみに秀逸! そして、この映画がどんな種類の映画かを非常に端的に表わしているよね。
監督のトミー・ウィルコラは『キル・ビル』のパロディ映画『キル・ブル 〜最強おバカ伝説〜』で注目を浴びた若手の新鋭。こんなもんで注目されるのってどうかと思うわ、という話はさておき(?)、というわけで本作も当然ゾンビ映画ではあるけど「ゾンビ・コメディ」なのであった。なので、やっぱりホラー映画の文法ではなく、おバカ・悪ノリ・エログロ・下品というコメディ映画の文法で撮られているのね。
同じ種類の映画に『ショーン・オブ・ザ・デッド』があるが、あちらがロメロゾンビにオマージュを捧げた優等生的なコメディであったのとは対照的に、こちらはユーロ・トラッシュにオマージュを捧げたとでも言うか……とにかく「ひでえな!(半笑い)」という感じの映画だと理解して欲しい。
ストーリーなんかはもう二の次三の次で、「なぜこいつらをキャスティングした!?」というような華のないボンクラ連中が雪山へ行き、謎のオッサンの「ゾンビ出るよ」という警告を無視してやっぱりゾンビに襲われるという、単純極まりないお話。でもゾンビファンとしては案外そういうのが見たいし、ある程度しっかりメイクのゾンビが歩き回って、オッパイと内臓が出て、それでチェーンソーとかで人体がバラバラになれば最高!という感じでもある。
それに個人的には「ナチス・ゾンビ」というジャンルは後の世に残していかなければならないゾンビ文化の貴重な遺産の一つだと思っているので、こうした形で出来のよい新作が作られたというだけで、もう最高!と思わんでもないね。
とにかく難しいことは考えずに「そういえば最近ちょうど『人間とゾンビの死闘 in 雪山』みたいな映画を見たいと思ってたのよね!」という人は迷わずこれ行ってみよう。独創的なシークエンスもチラホラあるし、たぶん退屈はしない……はず。前半ちょっとダルいけどね。


6.『ノロイ』
個人的には超オススメ映画。みんなにどんどこ見てほしい。
その撮影スタイルから「日本のブレア・ウィッチ・プロジェクト」などとも言われるが、それは正しくない。いやいやいやいや、それってジャンルが「モッキュメンタリー(擬似ドキュメンタリー)」だっていうだけだろ!? 全然違うからな!
何が違うって、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』はビデオテープのナマの素材をそのまま観客に提供したが、こちらは全て編集済みだっていうこと。つまり、観客が退屈しないようにちゃんと作ってある。この差はマジで大きいよ。
怪奇ドキュメンタリー作家の小林雅文というオッサンがいて、彼は数々の心霊スポットを体当たりで取材・調査し、そこでのレポートを本やビデオにまとめていた。そんな彼の最新作が『ノロイ』。だが、小林はこのビデオテープの素材を残して突然謎の失踪を遂げ、彼の自宅も全焼してしまったのだった。
ちょっとややこしい話だが、この『ノロイ』という映画は、その小林雅文失踪の謎を検証するべく、彼が遺した最後の作品である心霊ドキュメンタリー『ノロイ』をそのまま映画として公開したもの、ということなのね。だからブレアウィッチみたいにダラダラせず、ちゃんとレポーターを勤める小林が現場でリポートするし、トークもインタビューもする。テレビの心霊特番をイメージしてもらえると分かりやすいかな。
そもそもの事件の発端は、小林が取材で訪れた、とある家での出来事だった。彼が受けた調査依頼は「隣家から赤ちゃんの泣き声がする」というものだったが、この依頼が思わぬ方向へと展開していく。一連の怪現象の裏に見え隠れする「かぐたば」という正体不明の存在。やがてその呪いは、事件を調査する小林自身の身にも降りかかり……。というわけで、あんまり言うとネタバレになるので言わないけど、なかなか面白そうでしょ!
監督の白石晃士は、一般には知名度はないが、ホラーファン的にはかなり有名な人。オリジナルビデオで「日本怨念地図」や「怪奇!アンビリーバブル」、「ほんとにあった!呪いのビデオ」などを手がけており、ここまで聞くと「えっ、じゃあ逆に"ほん呪"って作り物なの!?」ってなる人もいるかもしれないけど、今頃気付いたのかよ!という感じである。ってそれはどうでもいいな。
その他の有名な映画としては『口裂け女』や『グロテスク』などがあるが、特にこの『グロテスク』なんかは邦画では最高レベルの性的暴力&拷問映画で、イギリスで公開禁止になったことで無駄に有名。とにかくその他の彼の作品については、激しく人を選ぶということを強調しておきます。
白石晃士は、暴力系モッキュメンタリーはそろそろ置いといて、また心霊モッキュメンタリー撮ってほしい!と強く願う!
なお、類似の作風の映画には『オカルト』というのもあるので、気が向いたらこちらもどうぞ。


7.『バタフライ・エフェクト』
公開当時は全米が泣いた系の感動ストーリーとして宣伝されたタイムスリップ・スリラー。まあ嘘は言ってないわな。嘘は。
アシュトン・カッチャー演じる主人公・エヴァンは少年時代に断片的な記憶の欠落に悩まされていたが、ある日、「過去の日記」を読み返すことで過去に戻れるというタイムスリップ能力が自分にあることに気付く。そして、同時に、欠落した「13歳のある日」の記憶を取り戻す。
その「13歳のある日」の出来事こそが、彼と幼馴染のケイリーの仲を引き裂き、後に彼女に重大な悲劇をもたらすトリガーの日だったことを知ったエヴァンは、愛するケイリーを救うためさっそくタイムスリップによる過去の修正を決意。その結果、現在は大きく変化し、全てはうまくいったかのように思われた。
だが、過去の小さな変化はバタフライ効果のように波及し、現在のあちこちに歪みを生じさせていた。「あちらを立てればこちらが立たず」とばかりに起きる悲劇。そして、それを回避するために再度タイムスリップするエヴァン。だが、何度やっても現在の状況は悪化するばかりで、いよいよ事態は泥沼になっていき……というのがおおまかなストーリーです! だいじょうぶ! ぜんぜん話し過ぎてないから!
監督・脚本はエリック・ブレス。この人はもともと脚本家で、手がけた作品に『デッド・コースター』や『ファイナル・デッドコースター3D』などがある。この二つのタイトルから滲み出る安心感がいいね!
正直言ってこの手のサスペンス映画はネタバレ禁止だと話すことがないので、もう早くも話題がないです。冒頭でえんえんとあらすじを書いたのもそのせいなのだった! 残念!
なので、僕としてはもう傑作なので見てくれとしか言えない。歴史に干渉することの恐ろしさとか、修整すればするほど酷くなる泥沼っぷりとか、愛のために払う犠牲とか、そのへんにハラハラドキドキしつつ最後は感動して締めようぜ! きっと楽しいと思うよ! これが結論です!(ひどい)
ちなみに『バタフライ・エフェクト2』は、ほんっとーに酷い最低映画なので、見る人は自己責任で見てください。きっと不愉快になりますけど責任取れません。『バタフライ・エフェクト3』は前作の反省を生かしてか、まあ大丈夫、って感じかな。無理に勧めはしないけど佳作、って感じ。こっちは見ても良し!


8.『ビッグ・バグズ・パニック』
なぜパニック映画の主人公は揃いも揃ってダメ男ばかりなのか? ええ、そうですね。それはもちろん、非日常を乗り越えて人間的に成長するためですね!
というわけで本作ですけれども、開始五分くらいで即バグズパニックですからね。超テンポいい。前置きなしで非日常へ突入する潔さがすごい。
そして従来の昆虫パニックといえば、『スターシップ・トゥルーパーズ』という巨大な例外を除いては、たいてい「既存の昆虫そのまんまか、あるいは単純な巨大化」なんですね。まあ理由は単純明快で、『ザ・ネスト』なんかを見ても分かるとおり「昆虫はそのまんまで十分こわい! ゴキブリとか特にな!」というわけなんで、わざざわデザイン起こしたり着ぐるみ作ったりする必要もない!ていうことなんですけど。(たぶん)
でも、この映画の昆虫はぜんぜんそんなことなくて、無駄にオリジナル昆虫。もう見るなりに「こいつら宇宙から来やがったな。昆虫は宇宙から飛来した説は正しかった!」って思うレベルのSF造形。これは逆に安心感を誘うんだよね。だってこれはもう、虫っていうより「ちっさな怪獣」だもの。
で、この異形昆虫クリーチャーが、クモかアリかって感じで人間を繭にしているところから物語はスタートして、主人公はわずかに残った生存者と力を合わせてサバイバルしていく!というわけ。
で、ここからのストーリー展開が、驚いたことに昆虫パニック映画というよりはゾンビ映画って感じで、つまりこれは昆虫ゾンビコメディなのですね!ってなんだそれ。
でも、だって、なにしろディストピアでサバイバルだし、なんか知らないけど昆虫以外にも「虫ゾンビ」なる昆虫と人とのハイブリッドが生まれてしまうんだから仕方ないだろ! そのへんの絡みで「俺はもうダメだ……俺が虫ゾンビになったら殺してくれ……」という定番の泣きの要素もあったりして、もうマジでゾンビ映画。
よく映画のユーザーレビューとか見てると「この映画にはメッセージがないので駄作」とか「もっとドラマが欲しい」とかおっしゃる人がおられますけど、そういう人でもこの映画は大安心! なぜなら登場人物の全てにドラマていうか役割があるからね。もう「お前ぜったいイベントから逆算してキャラ作ったよな!?」ていうのが丸わかりなレベル。もう少し贅肉はあってもいいのよ!ていうくらいのタイトなストーリー展開&人間関係、それもまあ魅力っちゃ魅力ですけどね。
というわけで、昆虫vs人間の大スケールかつ小規模な戦いと、クライマックスの「ここ10年で一番ド肝を抜かれる大爆発」は必見!(マジで必見)
あと、どうでもいいけどパッケージの写真は酷いネタバレだと思う。『正体不明 THEM』並にネタバレ。すげえチープだし……。担当者は反省してください。


9・『フライトナイト』 
これぞB級映画の醍醐味!といわんばかりのヴァンパイア退治映画。現在リメイクが絶賛進行中で激しく不安です。
古典的な吸血鬼映画のプロット、なつかしのSFX、ティーンエイジャーの青春、そして愛すべきトリックスター。あーもう、これはいますぐ万難を排して見なきゃいけないですよね!
とりあえず最初に注意点から言っておくと、この映画は「寝取られ映画」なので、そっちのアレで失恋した人は精神の安定のために回避してもいい。心が癒えてから見ようね。
チャーリーとエイミーの二人はお似合いの恋人同士で、リア充な日々をイチャイチャと過ごしていた。そんなある日、チャーリーは隣の家に怪しい男、ジェリー・ダンドリッジが引っ越してくるのを見てしまう。なんとでっかい棺桶みたいな箱を引き摺って……!
その後いろいろ『ディスタービア』っぽい展開があって、ジェリーが吸血鬼だということを知ってしまったチャーリーだったが、ジェリーは彼に圧倒的上から目線で「命が惜しかったら黙ってろよ!」と恫喝する。それだけならまあ泣き寝入りすればいいんだけど(?)、なんと愛するエイミーがジェリーに奪われてしまうという展開に! これにはさすがにヘタレのチャーリーも黙っていられない。「このままではエイミーが殺されてしまう!」と焦った彼は、テレビのホラー番組に出演しているバンパイアキラーのピーター・ビンセントの協力を得て、ジェリーの屋敷に乗り込む……というお話です! あらすじ長くてごめんね!
映画の世界観は(当然ながら)80年台のアメリカなんだけど、なんつーかね、ピーター・ビンセントとジェリー・ダンドリッジの周りだけ、なんだか空気が違うってのを見てほしいとこですね。
いまや落ち目の銀幕俳優であるピーターは今もまだ一人だけクラシックホラーの世界に生きていて、もう時代は変わってしまったのだということを悲しく思っている。一方バンパイアのジェリーも、外では80年代に馴染んでいるように見えるけど、彼の屋敷の中だけはタイムスリップしたかのような古典的なクラシックホラーの世界。つまり彼らは種類こそ違えど似たもの同士であり、時代に迎合することを余儀なくされ、比較的うまく馴染んでいけたのが「本物のホラー」であるジェリーであり、時代から取り残されてしまったのが「偽物のホラー」であるピーターというわけ。こうした背景も含めて、クライマックスの吸血鬼屋敷への突入と対決は超燃える。
ずっと偽物のバンパイアキラーを演じてきたピーターはその知識を使っていよいよ本物の吸血鬼退治をすることになり、本物のバンパイアであることを隠して生きてきたジェリーも、銀幕から抜け出たような吸血鬼っぷりを存分に演じられるというわけ。もちろんこれは僕の完全な主観による見方なので、この映画がそういう文脈で描かれているわけではないけどね!(ここ重要)
監督は『チャイルド・プレイ』や『痩せゆく男』のトム・ホランド。この人『マスター・オブ・ホラー』以降ぜんぜん知らないけど、いま何してるんだろ?
ちなみに『フライトナイト2 バンパイアの逆襲』という続編もあるんだが、いまは見る術がない! なんということ! ブルーレイ化はまだですか!
ぶっちゃけあんまり評価の高くない続編なのだが、もうこれだけ見られない時間が続くと何でもいいからとりあえず見たいって思うわ。キャストも続投してるしね。
クラシックとモダンの過渡期に生まれるべくして生まれたロマン溢れる傑作、って感じかな! 今見てもぜんぜん色褪せない……は言いすぎだけど、その色褪せっぷりがまたいいので、安心して観よう。思い入れが強いのでちょっと暴走したかもしれないけど、普通にコミカルで面白いので超オススメ。


10.『蝋人形の館』
前回紹介したかったけどどうしても“どう書いていいか分からなくて”紹介できなかった映画に『エスター』というのがあるんですけど、この『エスター』というタイトルはテストに出るので覚えて帰ってね!
で、その監督であるジャウム・コレット=セラのデビュー作が、この『蝋人形の館』というわけです。強引!
この映画、ドラマ『24 -twenty four-』でブレイクしたエリシャ・カスバートが主演なのでウッカリ軽い気持ちで見てしまったけど予想外にグロかった!という人は多いんじゃないでしょうか。ストーリー的にはいつものアレ、田舎で狂人に襲われるっていう安心安定の定番ストーリーですけどね。もうホント大好きだわ。
ていうかこの映画がまたね、不思議なんですよね。見てる途中は「うわっマジでグロい。見てらんない」って思うんだけど、後で思い返すとそんなにグロくないんだよね。じゃあ何であんなにグロイと思ったんだろう?といえば、やっぱり見せ方が巧いんだろうなーと。
ホラー映画ってそもそも「なぜ怖いか?」っていうと、やっぱり登場人物に感情移入するってことに尽きると思う。ということは、つまりは「これが自分の身に起きたらどうだろう」っていう思考にうまく観客を誘導せねばならない。そして「とりかえしのつかないことをやっちまった……!」ていう場面でうまくシンクロ状態に持っていければもう大勝利、指先をちょっと切っただけでも「うわあああ痛ってえええええ」ってなるわけですね。で、まして本作はホラー映画ですので、そりゃもう人体が欠損したり人体を損壊したりでえらいことですよ。
さて話は変わって、『蝋人形の館』と聞いてあなたはどんなストーリーを想像するでしょうか。ええ、そうですよね。あなたが想像したそれで合ってますよ。完全にそういうストーリーだよ! でも、それは僕も見る前に分かってたし、分かった上で見ても余裕でビビらされたからね! そういう心の準備は保険にならないってこと。これはぜひ言っておきたかった。
この映画に欠点があるとしたら、「ちょこっと上映時間が長い」ってことと「前半の展開がグダグダ」という些細な二点、それだけですよ。これは事前に分かってて覚悟が決まってれば全然オッケーだからね。ほんと全然。
まあそんなわけでですね、ダークキャッスルエンタテイメントの映画の中で「唯一ちゃんと面白い映画」である稀有な映画『蝋人形の館』、みんな見てね!
ラストの大崩壊(カタストロフ)は必見! こういうのが映画の醍醐味! 詳しくは言わないけど!
ちなみに『スーパーナチュラル』のジャレッド・パダレッキも出てるけど、彼目当てで見ると相当ガッカリするのでやめておきましょう。素直に『13日の金曜日(リメイク)』にしておくか、ジェンセン・アクレスの出てる『いけにえ』にしておこう。


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というわけでですね、勢いだけで10作品紹介してみましたけど、どうだったでしょうか。
こんなメジャーなのはいいからもっとマイナーなのを教えろとか、地雷原の中の傑作を教えろとか、リクエストがあればそういうのも考えてみますので、コメントください。
前回に引き続き、「こんな面白いホラー映画があるよ!」というのも待ってます。ていうかそれを切実に待ってます。
ここまで読んでくれた人、本当にありがとうございました。


散文(批評随筆小説等) 現代ホラー映画 2011年 夏の10選 Copyright 古月 2011-06-28 23:05:58
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