坂の上のひと
恋月 ぴの

この坂道は君とともに上った坂道

ふたりして登坂の辛さにあえぎ
君の差し出した手のひらの熱さに驚きながらも
未来への扉が垣間見えたような気がして

したたる汗の交わる戸惑いと
きつく握り返してくる力強さに心躍らせた

ふたりに言葉なんていらなくて
忙しい息の甘酸っぱさだけが頼りだった



この坂道は君とともに上った坂道

あの頃とさして景色に移ろいはないはずなのに
気がつけば坂の上はすぐそこで

あまりのあっけなさに漏れる苦笑を隠しようもなく

ふたりして何を悩んでいたのか
今にして思えば、あれでも駆け落ちだったのか

永遠に辿り着けないのではと仰ぎ見た苦悩
せめてあなただけでもと死を賭してくれた悲しみ

総ては無に帰してしまったのだろうか

これが分別ある大人になったということなのだろうか



この坂道は君とともに上った坂道

幾度振り向いても君の姿を認めることはできず
わたしひとり坂の上に取り残されて

よく太った野良がわたしを見つめているような気がした

どこかしらでちりりんと風鈴が揺れて
梅雨明けの空はゆっくりと茜色に染まりだす




自由詩 坂の上のひと Copyright 恋月 ぴの 2011-06-27 19:18:48
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