一 二

いつもの安くて多い
路地裏の高架下にある定食屋に入る

食券を買って
店員さんに渡す
1分も経たぬうちに飯が出てくる
店に入るときも出るときも
店員さんとの会話は無い

電車が走る騒がしさに圧倒されながら
隣に座った、おじさんを見ると
エロ本を見てニヤニヤ笑いながら
鯖の皮を食べている

いつも頼むカツ丼に
醤油を入れかき回し
柚子胡椒をかける

何も考えない
ご飯が目の前にあったら
条件反射で食べるだけだ


茶で口を濯いで店を出る
電車の音から離れ
路地を抜けて表通りに出ると
お洒落なスパゲッティ屋の前に
行列ができていた
黒板の立て看板に
「本日、ファミリーサービスデー」
と書き出してあった

列に並んでいるのは
家族連れやカップルばかり

「馬鹿じゃねえの
こんな蒸し暑いのに」

初夏の湿り気を帯びた熱気の中でも
誰もが楽しそうにしている
親は子を抱き上げ
恋人同士は繋いだ手を離さない


これが食事だ
食べて心と体が豊かになる食べ物が
食事だ

俺が食べたのは
ただの餌だ
ただ生きるために採った
餌だ


自由詩Copyright 一 二 2011-06-26 12:11:58
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