逃げたい
ゆえ






――――沈黙する夢。


限りなさを湛えた少女、その細く白い腕に鴉の黒い爪が食い込む。
笑顔の下にある宇宙、あるいは転落死。
完了の合図が鳴らないので、ここはいつまでも連続する。
問いかけるのは無音の声、ごめんなさいスピーカーが壊れてしまって聴こえないの。
だって掴めないのだものどうしたって、そういうものでしょう。

いとおしさが私の首を絞める。
恐ろしい力で私を連れ戻すために。

じゃあ約束してくれるの、私の中にあるこの湖面をあなたは覗いたことさえ無いくせに。
口から落とされるものなんて錆びた錠でしかないのだと叫んで見せたら、なおゆるやかにあなたは笑う。
落としたものは沈んだままで、その姿も忘れてしまった。

何者にも守られない、薄い皮膚を破って入り込むその手が苦しい。
取り出した残骸を愛せるとでも言うのなら。
それでもきっとそこには何も無い、何も無いのだ。




自由詩 逃げたい Copyright ゆえ 2011-06-26 12:11:40
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