ただ、流れてゆくものは行先を見ない
ホロウ・シカエルボク
浅い流れの面が跳ね返す光のように
幾つもの瞬間を網膜に焼きつけて
君は僕の縄張りから消えた、終わりを隠す猫みたいに
夕暮れが最も鮮やかな季節は
いつまでも繰り返すバラードのようだ
歩けなくなった地点までを
緩慢なカット・イン―アウトで果てしなく見続けるのだ
デジタルは二度ばかりの「決定」を押すだけで
ひとつの名前を無かったことにしてしまう
そう、水切りの石が川底に沈むみたいに
僕は君を通過することで再生される感覚だった
君が僕をいきものにしてくれていた
からっぽの世界に突然投げ出された僕は
留まる足場を持てないままどこまでも流れてゆく
いつか
互いの体温であることを誓い合ったよね
それが何かなんてけして言葉には変えられないけれど
あの日共有したそれぞれの輪郭は
いまでは忘れられない夢のような
もう触れることの出来ないリアルを輝かせているのさ
対岸の堤防の向うの錆色の工場で
なにかが処理されて煙が立ち上っている
コントラストの強い夏の光と
躊躇いがちな雨雲の集まりの間で
暫定的な飛行機雲のようにそいつは流れてゆく
沈没船の様な川底の自転車のハンドルの端から
弾薬の様な色をした魚が試運転みたいに跳ねる
高層マンションから降りてくる偽物の風
崩れた廃墟の壁の匂いがする
崩れた廃墟の壁の気持ちが
流れてゆく僕にはとてもよく理解出来る
失う、ということは
いま、現在しか
ここになくなるという状態なのだ
あっ
白鷺が見ている
白鷺が
じっと
僕のことを