transfer
mizunomadoka

背中に熱を感じた
知らない部屋にいるとわかった
扇風機が窓の外を向いて
換気の役割を果たしている
カーテンは重いピンク色をしていて
窓のない壁の一面に海と空が描かれている

私は自分を思い出す
膨大でささやかな記憶が
流れ込んでくるのを感じる
目眩とともに目を閉じる
そうかこの人間になったのか

指から両腕、両足を動かしてみる
性能はよくないが、四肢は満足に動くようだ
残された時間を考えて
少しは身体を鍛えるべきだと結論付けた

周囲を検索し、上空の旅客機にアクセスする
凍った機体に触れ、気圧差をすり抜け、座席の上を浮遊する
人々はシートベルトをしている
着陸まで14分
乗客の端末から上層へのゲートを探す

不意にベルが鳴って
私は身体に戻される
仮眠して買い物に行くつもりだったらしい
筒状の時計にメモが入れてある
記憶にないので
母親か妹のものだろう
エクレアとハーゲンダッツをよろしく、と
雑誌の文字を切り抜いて
書いてある

私は立ち上がり
汗で湿ったシャツを脱いだ
背中にカイロが貼られていた
・・もう





自由詩 transfer Copyright mizunomadoka 2011-06-24 20:31:30
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