味わう時間
電灯虫

夕飯時の支度が始まる。
古新聞が敷かれる中で
温めた油に
手羽先を入れて揚げる。
バチバチいって油がはねるから
体を後ろに引き 
顔だけを出して覗き込んだ。
きつね色になって揚がった手羽先は
キッチンタオルに油を沁み込ませて
旨そうな味を匂わしてくれて
いつも想像で先に食べた。
すぐ横の台所では 
包丁がまな板の上で音をたてる。
朝と違って 夕時は
一日をある程度過ごして
気力も体力も減っちゃって
休み時間にしちゃうから
いつもの癖で
大人しく椅子に座ってられない。
みんなが帰ってくれば
狭い食卓を囲んで
箸がぶつかったり
迷ったり
肘を突いたり 
左手を添えなかったり
二回以上 大きく注意されたりで
ご飯は美味しかった。
年を跨いでいくほど
できる食卓の余裕と
ぶつからない箸が
食べやすさと
寂しさを残していったけど
ご飯は美味しくて
今までとこれからは 繋がった。
カチャカチャしながら
洗い場に収まる食器は
ご飯粒の数で個性を残す。
明日も明後日も 
それがあり続ける限り
お箸で日々を刻むために
油汚れをキレイに洗い流す
面倒臭さを味わう。


自由詩 味わう時間 Copyright 電灯虫 2011-06-24 00:39:05
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