太平洋
藪木二郎
高度一万メートルまで上がると
地球の丸みを
実感できるんだそうです
大洋の中心に小船を浮かべても
やはりそれを
実感できるんじゃないでしょうか
左右どっちでも
水平線をずっと追ってくと
僕の身体は
グルッと一回転しちゃいます
見上げればジェット気流
高校時代
七月の教室
想像のヨットは
太平洋を航行してました
先生も
クラスメイトも
みんな鮫に食わせちゃいました
菅野さんはちょっと念入りに
夜明けの海で
まず右脚をバキッと
そのあと臀部に食いつかれ
海面を散々
引き摺り回され
西村先生
書道担当の紅一点の女性教師は
更に念入りに
まず左脚
胴を飲み込まれながら派手な悲鳴を上げ
最後にあの
大きくはないけど上品な胸を
肋骨と一緒にバキバキッと
そして
血ブハッと吐いて
でもそんな
ヒロイン二人への残酷な仕打ちは
余計なこってした
高校時代の僕の世界に
異性なんてもんは
存在しちゃあいなかったんですから
有限な人間のうちに
神が永遠の観念を植えつけたように
モテなかった僕のうちにも
エロ本が性の観念を植えつけてましたが
そんなもん
形而上学です
独り
独り
独り占めの太平洋でした