たどたどしい進法の季節、かさばる目覚めに血を掻いたなにか
ホロウ・シカエルボク





おれの存在は
ナシにした話みたいなもの
壊れたオートロック
煙を上げたラジオ
真夜中にズレこんで
サイクルをゆがませる
うまく流れたはずの流れ
わずかに残留して
腐敗を始めてゆく


嘘みたいなことしか書けない
嘘みたいなことしか書けないぜ
どんなに繰り返したって
本当のことはどこかの浅瀬に姿を隠してる
石みたいな小さな貝のようにさ
黙って満ち引きに耳をすませているだけなんだ


雨が続いて
あたりはまるで上手く出来なかった夜明けみたいに暗い
ただ雨が窓を叩いて
逝く宛のない協奏曲のようにとっちらかったアンサンブルを繰り返してる
フーキーウーキー、俺は唸るみたいにメロディーを探して
不精な眠りはそれなりに供養されて時に消化される


上書きされてく虚ろなデータ


路面電車が今日何度めかの
むずがりのようか揺らぎを落として
また誰かが車輪の運動によっていずこかへ運ばれてゆく
良いも悪いもない
役割だけが日捲りを捲るいずこか
汚れた身を誇りにして
飲み込んだ言葉を勲章にして
いくつかの世代と
いくつかの世帯と
ふるいの中の
いくつかの欲望のために
本当に手にしたことなんて
きっと一度だってなかった
生身の身体にしがみつく理由なんて
きっとそんなとこにしかないはずだから


雨の歌を聴かせて
雨の歌を聴かせて
この季節は
そんな進法によって刻まれている
流れていって
ナシになる朝と夜、そう
水抜きの穴から
誰にも見えない地下の通路を抜けて



俺は浄水場の
すぐ近くに住んでいた
いつだったか
巨大なコンクリの水路に
潜り込んだことがあった
地下3メートルほどの縦穴から
世界を見上げたことがあった
細長い穴が無数に開いた鉄の蓋によって
午後の太陽が出来たてのパスタみたいに降り注ぐ穴
水が来たらお終いだと思った
息が出来なくなって死んで
膨れるまで見つからないのだろうなと


あのときなら受け入れることが出来たかもしれない


その
忘れられた城のような深い穴は
いつしか入口を塞がれて
本当に忘れられてしまった
雨が降り続く季節には思い出す
あの時
俺の身体を飲み込んだ音のない水のことを


上手く出来なかった夜明けに
水抜きの穴を探している
何もよどんだりしないための
乾いたなにかを取り戻すための
この季節のたどたどしい進法を
浅い眠りとともに地下へ流してしまうための











自由詩 たどたどしい進法の季節、かさばる目覚めに血を掻いたなにか Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-06-20 11:05:41
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